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2011年12月30日 (金)

粟粒結核と結核菌検査について

年末年始の忙しい時期ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

私は丁度システム更新と重なりまして、立ち会いに細菌当番、当直と休みが一つも無い正月を迎えております。

さて、先日のグラム染色カンファレンスでは粟粒結核の症例もありました。時間の都合もあり検査についてはゆっくり時間が取れなかったため残念に思われてる方々も多かったと思います。ちょっと追加でコメントをさせて頂くことにします。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/11-33b5.html

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/11-9c9f.html

1)粟粒結核についての簡単な説明

粟粒結核とは『結核菌が血行性に播種し、少なくとも2臓器以上に粟粒状の結核病巣がびまん性に散布されているもの』であり、初感染後に血行性播種による早期蔓延型と初感染後ある程度時間が経過してから再燃し血行性に播種する晩期蔓延型に区別される。現在の粟粒結核は後者の晩期蔓延型が多く発生しています。

昔から問題になっていたのは小児の初発感染後の粟粒結核でしたが、BCGを乳児期に接種することで、発症予防になっている可能性が示唆され、発生数は毎年1人程度と低い水準に推移してきました。しかし、成人例では2009年には150症例の報告があり、少し増えてきている傾向にあるようです。

発生要因は宿主の免疫低下であり、血液疾患、悪性腫瘍、免疫抑制剤の服用、ステロイドの使用、糖尿病など様々で、最近では医原性によるものが増えています。

2)粟粒結核の喀痰検査

さて、結核の診断で結核菌の分離は欠かせないものだと思います。分離する方法はいくつかあって、塗抹陽性、培養陽性やPCR陽性など一般的な検査であると思う。

一般的に肺結核が多くみられるため、喀痰検査は必須項目になると思います。

ところで、普通の肺結核では、喀痰からの塗抹陽性率は50-60%、培養陽性率は90%以上にもなります。PCRの陽性率は90%以上。ここで、考えておくことは、塗抹陽性とは結核菌かどうか確定しないこと、PCR陽性は生菌とは限らないこととPCRより培養検査の方が陽性率は高いことです。なので、喀痰塗抹が陰性でも結核、PCRが陰性でも結核ってのは普通にあることです。

粟粒結核時の喀痰塗抹陽性率は文献によって様々ですが14-36%という報告があります。一方、喀痰培養陽性率は43-76%という報告があり、通常の肺結核より塗抹培養検査で検出されないことがあることは知っておくべきことであります。当然、PCRも同様のことが言えるでしょう。

培養検査が最も検出感度が高いですが、知っての通り培養陽性になるまでの期間は数週間かかりますので早期診断には有用な検査であるとは言えません。

3)喀痰以外の検査材料

やはり、肺病変が多く見られるために喀痰で菌が証明されない場合は、気管支鏡検査は考えなければなりません。気管支洗浄液や肺生検による組織が検査材料になります。

また、胃液や便も喀痰の次に検査材料として採取してみると良い。

また、結核菌陽性率が高い生検材料は肝生検で66.7-100%という報がある。骨髄穿刺も33-86%という報告があるが、肝生検や肺生検に比べては検出率は低いようです。リンパ節生検と髄液穿刺も検査材料になります。

他には尿からの結核菌の証明が出来るため、生検する前に採取し検査することは意外に知られていないことなので、覚えておいた方が良いでしょう。

そもそも基本的な事ですが、結核の診断には1日1回で3日連続の喀痰検査は当たり前のことで、言うまでも無いと思います。

結核は本当にシリアスな場面が多くある感染症の一つですが、ほとんどの施設が外部委託に依存していると思います。外部委託されている施設は、どうしてそういう結果に導かれるのか?結核検査指針に従った検査方法なのか?培養判定はどのくらいの感覚で確認されているのか?など確認することも必要でしょうね。

下記、は漸く見えた結核菌です。元々菌量が少ないため蛍光染色は是非とも実施しておきたい検査ですよね。

1229 蛍光その1 1229_2 蛍光その2 1228 チールネルゼン 

参考文献)

・Tuberculosis Annual Report 2008 Series 3. Childhood TB Tuberculosis Surveillance Center, RIT, JATA

・Tuberculosis Annual Report 2009 Series 1. Summary of TB Notification Statistics in 2009 Tuberculosis Surveillance Center, RIT, JATA

・当院における粟粒結核の臨床的検討,感染症誌78:929~934,2004

・MEDICINE,Late generalized tuberculosis:A Clinical Pathology analysis and comparison of 100 cases in the preantibiotic and antibiotic eras,59,5,352-366.

・粟粒結核,結核,第4版,254-261.

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2011年12月16日 (金)

第11回神戸グラム染色カンファレンスが終わりました

昨日は第11回神戸グラム染色カンファレンスでした。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/11-33b5.html

だいたい90名近くの参加者に来て頂けまして大変盛況で終了しました。ありがとうございます。

提示した症例3つはこのようなものでした(自分のメモ書きから転載)。

その1)82歳男性高齢者肺炎の1例

高齢者の誤嚥性肺炎症例で、結局培養でStreptococcus agalactiae(GBS)が出て原因菌と思われた事例でした。

ポイントは下記の通りでした

①グラム染色で連鎖球菌が多く見え、しかも二双性にも見える。診察に当たった研修医は肺炎球菌と思い込み、そのままABPC/SBTを選択。しかし、培養では肺炎球菌では無くGBSが生えてきた。類似している菌の鑑別はどうしようか

⇒染色所見の解説要点(師範手前自らさせて貰いました。)

やっぱり、肺炎球菌は市中肺炎時には外すことの出来ない原因菌で、知りたいのは誰しもあると思います。

A)肺炎球菌は二双性球菌+莢膜でそう思う習慣があるため、この形をしている菌を探す習慣が抜けない。なので、口腔内常在菌の中でも肺炎球菌に類似した菌を見つけると肺炎球菌と思い込んでしまう。

B)肺炎時に出てくる連鎖球菌として、GBS、ミレリ菌、嫌気性グラム陽性球菌を見せてどう鑑別するか解説した。

GBSはやや丸みがあり、連鎖が4-8連鎖のものが多い

嫌気性グラム陽性球菌(肺化膿症やVAPなどの時)は染まりが悪い、形が歪になり見える。

C)莢膜を探すなら、ここを見ろ!!的なことをコメント

通常、背景が白い場所では見えない事が多く、フィブリンが多く析出している場所で莢膜を探すのがコツ。貪食は認めない(莢膜は貪食回避するので)事がある。

D)教科書では見れない変わった肺炎球菌の一覧

莢膜が紅い、連鎖が長い、自己融解や貪食で菌の染まりが悪いなど

E)誤嚥像と思うPolymicrobial patternでもよく見りゃ肺炎球菌が判るスライド解

判らない場合は判らないで仕方ない。無理に肺炎球菌と決めつけない

F)悪い材料しか採取出来ないとか、誤嚥が酷くて、ハッキリとグラム染色像で肺炎球菌性肺炎の診断は尿中抗原の力を借りるしか無い。

集塊を作っている、扁平上皮に付着している菌は上気道に存在する菌がコンタミした可能性があるので参考にしない方がベター。

G)尿中抗原はperfectでは無い。感度はグラム染色の方が良い。偽陽性の問題もあり、患者情報を良く聞く。

偽陽性:ワクチン接種後5日間、小児で鼻咽頭大量保菌の場合、最近感染していた場合(抗原消失は数週間続くことがある)。

偽陰性:喀痰培養陽性でも尿中抗原は陰性、血液培養陽性でも尿中抗原陰性は存在する。発症後2日以内だと陰性化する場合がある。

莢膜の種類での陽性率は変わらない。

②初期抗菌薬の選択は妥当なのか?

A医療センターのO先生よりコメント

肺炎球菌にしても、GBSにしてもペニシリナーゼは出さないので、スルバクタム(SBT)は不要であろう。ペニシリン単剤で良いと考える。

K病院のO先生よりコメント

どうしても嫌気性菌を狙うのであればバクテロイデスのようなβ-ラクタマーゼを多量に出す菌が出ると意識する症例にはSBTを考える。

名言ですね。

その2)88歳高齢者肺炎の1例

粟粒結核でした。HRCT上で類似の画像所見が得られる疾患との鑑別と粟粒結核の診断について解説がありました。

その3)37歳MCTD患者の左下肢蜂窩織炎の1例

皮膚ノカルジア症でした。ノカルジアをグラム染色で見た時のポイント、皮膚ノカルジア症の治療と診断のポイントと疫学について解説がありました。

次回は2012年3月8日を予定しております。また近くに案内をさせて貰います。お時間のある方のご参加宜しくお願いします。また症例は公募形式を取ることにしましたので我こそはという方は発表宜しくお願いします。

写真は昨日のスライドです。

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2011年12月13日 (火)

外科感染症学会にて

12/1-2と三重県にある合歓の里で第24回外科感染症学会総会がありました。http://www.ccs-net.co.jp/kansensyo24/index.html

 

私は朝の8時半からのシンポジウムに参加させて頂き、ICT活動の中で微生物検査室の立場から、日常行っている活動内容について紹介させて頂きました。

 

感染症の専門学会で、しかも外科領域に特化していることもありネタの仕込みに苦慮しました。一体何をどう話せば良いのだろうという事です。

 

普段ある、『アウトブレイク調査をしてPFGEをしました』とか、『菌の検出状況を作成して臨床現場に役立てています』という内容は当たり前であり、少しネタばれのことも考えて当院で行っている、患者を大切にする微生物検査について話を作ることにしました。

 

というのは、その数日前に遡るが、廊下を歩いていると元ICTの外科医師と出くわしまして、唐突に『うちの細菌検査室の良い所って何かと言われると先生は何と思います?』と聞きました。まあ、大胆不敵。

 

でも親切にその外科医はこう答えてくれました。

 

『なんせ、結果が早いので処置にしても、投薬にしても対応し易い。』とのこと。併せて、『抗菌薬の投与量とか選択幅の話も付加されていることは臨床医からしても非常に有難い。』と言って頂けました。日常からグラム染色の腕を磨き、迅速に結果報告すること、尚且つ患者ごとにこれはCriticalな結果なのかどうか意味づけて報告していることが良いアウトカムを迎えているのであるという事を改めて気付かせて頂いた一面でもありました。

当日の内容は、検査をしていて材料の外観やグラム染色像から『これはCritical dataだから早く報告が必要』とか、『大まかなデータを電子上に報告するだけで十分であろう』とか、どう勘付き対応しているかについてまとめて報告しました。

結果、結構ウケが良かったのか、終了してから色々な先生に意見を求められました。朝早いシンポジウムでしたが参加して良かったと思えました。

当院では外科の術後は以下のことを気をつけて見ていきます。特に発熱を来たした場合は、相談の有無に関わらず下記の点。

1)術後肺炎の発生は無いのか?

 特にお腹に力が入らなかったり、イレウスなどで誤嚥性肺炎が無いのかどうかグラム染色にて所見の確認をしてみる。特にグラム陰性桿菌が多くなっているかどうかが大きなポイント。

2)術後の腹膜炎は無いのか?

 縫合不全を含めて、二次性の腹膜炎は無いか?特に、腹水やドレーン内容物のグラム染色にてグラム陰性桿菌の形状や染色性から緑膿菌や嫌気性菌の存在を確認するのがポイント。

3)尿路感染症は起きていないのか?

 バルン留置されている場合もあり、in-outのバランス、残尿測定、VURなどなど尿路感染のリスクを絞り、1世代、2世代セフェム耐性菌(自然耐性を含む)の有無を確認。勿論グラム染色像の迅速な報告あります。

4)CV感染は大丈夫なのか?

 栄養ルートの確保が困難なケースが多く、基本抜去の処置が見送られる例も含めて、抹消とCV採血の陽性時間の差を見る、CVルート採血からの直接グラム染色、カテーテル抜去直後の集菌操作によるグラム染色の結果解釈。

などなど。発表時間は15分しかありませんでしたがコンパクトにまとめ話しました。

やはり、基本は感染源の検索であり、原因菌の検索とともに適切な感受性抗菌薬をいかに早期導入が出来るか?そりゃ決着が早い方が耐性菌の蔓延も阻止出来るだろう。当院は出来るだけカルバペネムを使わずにどの程度対応出来るのかいつも考えております。

結果、カルバペネム耐性菌の発生は少ない、使いたい時にスムーズに導入可能(ただし、後で変更すること前提)となっているようです。

下記は当日のスライド。上の1)から4)のポイントについて話した時のものです。

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2011年12月 6日 (火)

第11回神戸グラム染色カンファレンス

この1カ月怒涛のように過ぎて行きました。ブログの更新は後進(どーん)しており、愛読家の方々にはご迷惑をおかけしております。漸く時間が出来るようになったと思いきや、病院システム更新のためハラハラドキドキの毎日です。

さて、グラム染色は一人で楽しむのも良いですが、半分は自慰行為まがいなので、たまには大人数でディスカッションするのも勉強になるでしょう。普段見えていなかったところを見れるようになる機会かも知れません。

神戸では『グラム染色カンファレンス』を実施しております。近隣の施設で寄り集まり、グラム染色についての話題から感染症の診断・治療まで幅広く行っており、最初は近隣施設だけだったのですが、最近の参加者は少し遠くの方も来て頂いているようです。

今回も下記の通り開催します。

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第11回神戸グラム染色カンファレンス

日時;平成23年12月15日 19:00~

場所;ANAクラウンホテル神戸 9階カモミール

演題は3つ

  その1)82歳男性高齢者肺炎の1例

  その2)88歳高齢者肺炎の1例

  その3)37歳MCTD患者の左下肢蜂窩織炎の1例

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本当にあるあるネタですよね。

単純に35歳、肺炎とすると結核菌か肺炎球菌かでしょうが、そうは問屋が下ろしません。持ち帰って頂くものは沢山あると思います。お時間のある方は参加下さい。

写真は以前に私、師範手前が報告したスライドです。

脳腫瘍術後で、ケモラジをしていました。縫合部分にニキビが出来て、痒いからと掻いていたそうで、だんだんと腫れて来ました。診察に来て穿刺吸引するとこんな菌が見えました。そうです。ニキビ=Propionibacterium acnesです。もともと、acmesにしようと思って届け出する際に”m”を”n”に間違えて申請したためこの名前になってしまったトリビアを持つ菌です。

血液培養から出たらコンタミ!と言われるこの菌も皮下膿瘍や涙小管炎から出れば原因菌MAXです。決して、コンタミでしょうと言わないで下さい。

特にこの菌は病原性が低く、グラム染色で確認出来ていなくても翌日培養で出ましたなどという事が多く、また染色性が悪い場合もあり、グラム陰性桿菌に間違われる場合もあります。貪食像など特に細胞質内への染色液移行が悪い場合も染色性が落ちる結果になります。陽性桿菌はまさに妖精の如く見る機会が少ないと思いますので、見えた場合はしっかりチェックすべき菌の一つです。

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