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2011年11月 1日 (火)

週末は学会と研究会のハシゴでした

土日は近畿医学検査学会でした。土曜日は丁度奈良県感染症サーベイランス研究会で講演依頼があり、ハシゴしてしまいました。電車に一杯乗れて、新快速225系にも乗れて楽しい日々でした。

奈良県感染症サーベイランスでは当院で検出されたE. coliのESBL、S. agalactiaeの重症感染症、肺炎球菌の髄膜炎と菌血症についてMLST解析結果から展望出来る病原菌の拡がりと市中病院検査室の関わりについて話した。少し難しいかも知れないと思ったが後の特別講演であった京都薬科大学の510先生においても緑膿菌、セラチアについて同様の話が聞けて、自分のサーベイランスは妥当性があるものが理解出来た。病原性の高いクローンの制御が今後注目されることは見えてきています。

日曜日の学会シンポジウムで臨床医と検査室のとネゴシエーションの話がありました。それぞれの演者からは日常行っている内容の紹介があり、非常に興味深く拝聴しておりました。主に薬剤耐性菌が出ると予測された場合にどう臨床に伝えてアセスメントしていくのか?というものでした。

薬剤耐性菌なんてと言い方悪いのですが、発生頻度を考慮する上でそこまで臨床上気にしないといけないのか?と自分の意見とは食い違いがありました。そこで少し疑問に思ったことがあり質問をしてみました。

『内容は良いが、薬剤耐性菌に的を絞りすぎて、ビルレンス(病原因子)については言及しないのは何故か?』

果たして会場の参加者はこの言葉が理解出来たのだろうか?不安が過ぎった。

司会者、演者からも明確なコメントが返ってこなかったが、病原因子の測定は今の検査室では必要が無いというコメントを頂いた。腑に落ちない。

確かに薬剤耐性は病原性を高める一つの要因にはなるが、菌の同定=病原因子の可能性を示唆する訳で、予後不良因子の一つに挙げられている研究が多い中、本当に病原因子の測定は不要なのか?未だ疑問に残る。

メジャーな病原因子として毒素があるが、CD毒素、ベロ毒素など最近は簡易的に測定出来るものも出てきた。ではこれも不要なのか?という疑問である。恐らく答えはNOである。

また属レベルは一緒でも菌種レベルでは毒性が異なるもの、例えばS. pyogenesとS. agalactiaeである。S. pyogenesはストレプトリジンを有するが、S. agalactiaeは有さない。つまりS. agalactiaeは病原性が低いという判断になる。また、外毒素を抑えるために投与する場合があるCLDMの投与もS. pyogenesに比べて言及されるものは少なくなる。(CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS,July 2000, p. 470–511)

菌種が同一でも前述のことは当てはまる。MRSAにしてみても全てが重症化する訳では無く、PVL陽性の場合には予後が悪いことがある。そのためにMRSAの検出のみならずPVL産生の有無を検索することは必要になってくるに違いない。表皮剥離毒素(ET)やTSST-1は既に測定する系があり、重症疾患では測定しておくことは吝かで無いと思っている。(ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Oct. 2011, p. 4581–4588)

しかし、一般ラボでは予算計上、マンパワーの観点からは難しいため少し規模の大きな病院に依頼するか、研究所レベルにお願いするか、現状は厳しいままである。一般ラボで簡易的に測定出来るようになれば、もう少し日本国内の疫学が進むはずである。だって、検査室で測定しなければ、病院のどこでこの仕事をするのだろうか?と思うからである。

また、検出菌が判ると感染病巣の特定もし易くなり、検出した検査室としても会話が一層弾む訳で、菌=病原因子⇒感染病巣⇒予後因子という構図も出来上がる訳である。厳しい事を言うようであるが、菌同定をしっかりし、感受性を報告し、菌の毒性についても説明出来なければ抗菌薬の使用に関する診療支援をするのは非常に危険である。

精査出来るような施設が周囲には無く、いつも専門家の先生に依頼して疫学解析を進めているが、少しずつ院内に取り込んで周囲の医療機関にも対応してあげたいと思うこの頃です。諸外国のジャーナルを読んでいても、病原因子の事に言及されているものは多く、自分の考えが正しいとは言えないが、これからも病原因子には着目していきたい一つのテーマである。

写真は肺炎球菌です。白く抜けて見える莢膜も当然のことながら病原因子の一つです。菌名を伝えることで莢膜産生菌であることを臨床に伝えることは最低限の事に値すると思う。

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コメント

先生の提言は非常に重要だと思います。
今の微生物検査は耐性菌の検出にあまりにも重点を起きすぎているような気がします。効果のある抗菌薬の用法・容量を主治医に提案できれば良いのですから。耐性菌を見つけることに懸命になっているような
病原因子の検査ができなくても検出された菌からどのような病原性が考えられるのか臨床にアドバイスする必要はあるとおもいます。莢膜を持つ細菌とかムコイド型のクレブとか。
また 全国的サーベイランスて⁇特に真菌のサーベイランスて疫学的には重要と思われますが、患者治療については疑問があります。自施設でのアンチバイオグラムは必要ですが、全国的なものがどこまで必要なのか、抗真菌薬の用法・容量も決まっていますし地域性があっても無くてもどちらでもいいような。話が逸れましたすみません。
先生 患者に最も近い臨床検査技師ではないでしょうか!

投稿: にゃんにゃん | 2011年11月 2日 (水) 00時55分

にゃんにゃん様、ありがとうございます。本当に最近は薬剤耐性菌や院内感染対策の事を言い過ぎに思います。悪いとは言いませんが本来の微生物の同定を軸にした検査の方向性とはズレてきているように思います。ルチンを続けている上で微生物の同定は病気の状態を把握する上で必要なので、早く微生物の種類を返す、病原性について述べるという事が我々本来の仕事では無いのかと考えています。

投稿: 師範手前 | 2011年11月12日 (土) 10時08分

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