グラム染色で嫌気性菌と疑う時
何だかとっても忙しくブログを更新する時間もありませんでした。とは言え、今暇か?と突っ込むのは止めて下さい。気晴らしにブログ再開です。
さて、感染症の相談に闘魂注入を続けているとコンサルテーションが多くなります。それは皆さん同じと思います。当院は感染症科もなけりゃ、総合診療内科もありません。感染症はどこが見るのか?というと細菌検査室が発信源になることが多いです。恐らく、中小規模の総合病院であると同じような状況だと思います。
今回はこんな相談です。「褥創が化膿してCT撮ったんだけど骨髄炎もありそうなんだ。」という相談。褥創って色んなとこに出来るのでどこの骨髄炎か特定しないと出る菌も違いますので、何処の褥創か聞くと「仙骨」ということです。良くある話です。
仙骨褥創が化膿して骨髄炎になった場合の起炎菌は何でしょうか?と言われているようなもんです。色々と文献を読み荒らしているとHITするものは出てきます。
高齢者の骨髄炎をまとめたものには(参考:Clinical Infectious Diseases 2002; 35:287–93)
仙骨の骨髄炎:黄色ブドウ球菌、好気グラム陰性桿菌、B. fragilisが多い
診断は:単純撮影と赤沈、CTやMRIで診断しましょう。
とは記載されています。B. fragilisが出てきた。糞便の汚染が強いので出て来やすいとのことでなる程です。知っているのと知っていないのとでは大きな違いです。
骨髄炎の場合は骨を削り提出することもあるでしょうが、内科的に治療を続けることも多い疾患です。なので、今回のような二次性に広がったと判る骨髄炎の場合は、隣接した膿瘍の培養をして骨髄炎を予測することもあると思います。理由は、骨髄炎だからと言ってブドウ球菌を探すのが関の山であれば、グラム陰性桿菌が出てきただけでもうCriticalなグラム染色所見であるのですから。
知っていれば、グラム陽性のぶどう球菌+グラム陰性桿菌を良く観察することが出来るのでしょう。グラム陰性桿菌の中でもB. fragilisはどう見えるんでしょうか?
嫌気性菌の多くは染色性が悪く、形状も歪な湾曲を呈したりしています。Fusobacteriumのように特有の紡錘型になっている場合もあるでしょうが、Bacteroidesは大腸菌にも似た大きさで大小不同を伴って見えることが多いものです。
ここまで判れば、あとは鏡検でブドウ球菌と染色性の弱い陰性桿菌、染色性の良い陰性桿菌(ここでは腸内細菌群を指す)を探すと良いでしょう。当然、骨髄炎を疑っているので血液培養は必須で、血液培養からは見えた菌のどれかが発育するはずと思い、数日は仕事を続けなければなりません。
やはり嫌気性菌を疑う場合は閉鎖空間という因子も大事ですが、出て来やすい部位(感染症)を覚えて、嫌気性菌をイメージしながら見ないと見えなくなります。見なければならない菌を推定して見る習慣を着けることはグラム染色では非常に重要なことなんです。
抗菌薬ですが、重症度によりますがカルバペネム、PIPC/TAZ、キノロン使う場合は+CLDMかMNZ。当然、ローカルファクター(MRSAや緑膿菌)も念頭に置かないといけません。
写真は膿瘍から見えたpolymicrobial pattern(中にヒョロヒョロしたグラム陰性桿菌が見える=Bacteroides)。陽性球菌は小さい球菌なのでP. anaerobius辺りなんでしょう。
血液培養は1.5日で嫌気のみ陽性になり予測どおりのBacteroides。
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コメント
はじめまして。
エンテロバクターで検索していましたら、こちらのブログに辿り着きました。
私は、おりもので肛門に異物が出来てるので婦人科で検査してもらったのですが、カンジタ検査でなんでもないと言われ、リンデロンVGと言う軟膏を処方され、それを塗ったらただれました。その後、婦人科でおりものの細菌検査をお願いした結果、エンテロバクターが検出されました。ですが医者は「エンテロバクターなんて聞いた事ない菌が出てるけど辞書にも、どういう菌なのか載ってない。なんでもかんでも抗生物質で治すのは良くないから」と言い膣洗浄とハイセチン膣錠1錠入れて治療は終わりでした。おりもので肛門もただれてるのですが、痔疾の薬を処方されましたが使用してません。それ以来病院には行ってないのですが、下腹部の違和感と肛門のただれが治りません。
全然関係ない質問で、大変ご迷惑だと思いますが、藁にもすがる気持ちで質問しました。
投稿: 一般患者 | 2011年6月 5日 (日) 18時11分
一般患者さま
少し整理しますね。
主訴はオリモノと肛門の異物ですよね。私は医師では無いし、一般患者さまの背景や症状を現場で確認していないので確実な情報は言えませんが、オリモノが多いというのは膣炎なかにかの症状なので医師は洗浄とハイセチン膣錠を処方されたと思います。ハイセチン膣錠とは抗生物質が入ったもので飲んだり点滴したりするより、膣局部に高濃度に抗生物質がわたるようです。一般的な治療法で問題が無いように思います。
ただ、まだ症状が遷延したりするのであれば再度診察して貰うか、セカンドオピニオンがある外来へ行ってみてはどうかと思いますが、元々、かかりつけの医師が居るのであれば相談されるのが良いとは思います。医師にはしっかりと症状など情報をお話することをお勧めします。
投稿: 師範手前 | 2011年6月 6日 (月) 01時19分
師範手前さま
嫌気性菌にはいつも悩まされております。
グラム染色ですが、染色性も悪く薄く、歪んだ感じなのはよくわかるのですが、今回ちょっと見慣れないパターンに遭遇したので教えてください。
陽転した嫌気ボトルからのグラム染色は、小短桿菌でヘモ様でした。HACEKの可能性もあるので好気、嫌気、CO2で培養し、発育は嫌気のみにグラム陰性桿菌でした。コロニーの染色像はいかにも嫌気性菌様で間違いなしでした。
ボトルからの染色でA.aphrophilus等ではないかと推測しましたがハズレでした・・・
ボトルとコロニーからのものではこんなに違うものでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿: 指導員手前 | 2011年6月 9日 (木) 12時43分
血液培養からのグラム染色は想定外の像になることを経験します。あくまで液体培養なので平板より栄養価が高いために起こると言われております。今回は嫌気性菌で良いんじゃ無いでしょうか
投稿: 師範手前 | 2011年6月11日 (土) 14時02分
師範手前さま
ありがとうございます。勉強になりました。
こういうことも頭に入れながらグラム染色を見なくてはいけないのですね。難しい・・・
またよろしくお願いします。
投稿: 指導員手前 | 2011年6月12日 (日) 14時51分