Eikenella corrodensが出たと伝える時
先日、胸水から菌が発育しました。ダイレクトに出たのでは無く増菌培養から。
少し話題はずれますが、感染症を疑って胸水培養する場合、グラム染色で見えない事も多く、遠心した処理検体を直接培養するのに加えて液体培養も実施します。胸水をカルチャーボトルにダイレクトに入れて出すとグラム染色が出来ませんので、スピッツに別に1本採取することを忘れないようにしなければ
なりません。
で、出た菌は下のようでした。
増菌培養の塗抹(1000倍)
『グラム陰性桿菌ですが、染色性が悪く細い桿菌。緑膿菌かも知れないけど、集塊は見えないので、緑膿菌じゃ無いと思うんですが』という検鏡をした部員からコメント貰い見たが、私も同様の意見。こういった場合の報告って困りますよね。取り合えず分かってること、はっきり言えることを整理して伝えてみましょう。
①グラム陰性桿菌である。
②腸内細菌では無いと言うことが推測される。
③今の状況から緑膿菌などの非発酵菌は外せない。
④よっぽどレアな菌じゃ無ければ明日までに推定菌種が言える(この時、血液寒天、チョコレート寒天、マッコンキー寒天は必須!)
とりあえず、この順番で報告してます。何故なら①→④に行くにつれてマニアックになり、臨床微生物に興味が無いなら何言っているのか分からないと思うので、向こうの時間に合わせて報告様式を変えるようにしております。
検体を採取するに至った背景を聞くと、右肺炎に右胸水貯留。細菌性の胸水を疑い提出したとのこと。抗菌薬の投与も無く、緑膿菌の既応歴は無いとのこと。うーん。非定型だがインフルエンザ菌も想定に入れておこうという事になりました。胸水穿刺後にMEPM投与開始。ここでの問題はMEPMはどうか?でしょう。
翌日、こんなの出てきました。
培地上の発育性を見ていると、もうこの菌しかありません。集落の中心部から周辺にかけてのcorrding 形成です。同様の培地上の特徴はなく、同定する前に報告可能かと思います。一応、βラクタマーゼ陽性のものがある、EM、CLDM、MNZは耐性であるなど、薬剤耐性のことを合わせて言うことは大事です。つまり、マクロライド、CLDM以外であれば耐性はあまり気にせず、ペニシリンを中心としてオーソドックスな治療が期待出来るということになります。MEPMまでは必要ないと思うので患者さんの状態と相談しながら、de-escalationも選択することが出来ると思います。
それは、Eikenella corrodens と言っても分からない医師も多く(感染症を専門に診てないとほぼ無理でしょう)、病原性、症例として報告が多いのか、薬剤耐性はどうかなどのプチtaxonomyは必要でしょう。同時に同定上の注意事項など覚えると良いでしょう。
教科書的にはHACEK group bacteriaと言われるが、培養条件は微妙に違うのは書かれておらず。同定はCarduobacterium,Actinobatillusのように難しく無く、むしろ集落の特徴を知っているとH. influenzaeより容易である(同定かけなくても分かる)。元々はBacteriodesだったので発育性も違うようです。
教科書的には、元々口腔内の常在菌なので膿胸を起こすことは稀で無いので起炎菌の可能性が高いということを加えると良いでしょう。ついでに気道疾患がベースに無いのか確認するのが大切です。肺炎、歯性感染症、頚部膿瘍などの疾患がメジャー疾患のようです。
インタラクティブな会話を日常的すると刺激的な毎日を送れます。
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コメント
いつもご指導いただきまして誠にありがとうございます。当院の症例ですが、75歳男性の腹水から増菌培養で検出されました。カルテ確認中です。
投稿: 佐藤 守彦 | 2013年5月 9日 (木) 16時35分