難問(かもしれない?)を出しますの解説
先日出したグラム染色像の解説を書きます。コメントを頂きました方々どうもありがとうございます&お待たせしました。
私が出した答えは【誤嚥性肺炎に加えて肺炎球菌性肺炎が疑われる所見】です。
http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-0a42.html#comments
まずは考え方の課題から
・喀痰から得られえる所見より患者の病態は何が考えられるか?
・起炎菌が判る場合は何が想定されるのか?
・何か他の検査所見で有用なものがあれば何を参考にするのが良いのか?
コメントも頂いていたので少し交えながら解説していきます。
コメントに多かったのが、喀痰としての品質が悪いこと誤嚥を示唆することの2つです。品質評価はGeckler分類を使うことが多いと思いますが、このGeckler分類は成人男性の市中肺炎を診断するために用いるものであるので、今回の高齢者であること、誤嚥を予想する病態にグラム染色像と加えた解釈が出来ますので、この場合のGeckler分類そのものの信頼性がどこまであるのか考える必要があります。Geckler分類は今から35年ほど前の研究論文です時代も変わっていますので必ずしもそのまま適用は出来ないと考えることが出来ます。
注目したいのが扁平上皮の多さ。これは喀痰排泄中に上気道の上皮が剥離しコンタミネーションしたものかどうか考えることが必要です。口腔内の扁平上皮が見える場合は上皮に細菌が引っ付いた像として確認されることが多いので、下気道から排泄された可能性が高いと考えます。
次いで、少ない白血球を見て貪食が無いかどうか注目することが大事です。今回はグラム陽性桿菌の貪食が少ないですが確認されています。下気道感染を起こす代表的なグラム陽性桿菌は何でしょうか?という質問に答えは無い訳で、つまり何か分からないことになります。口腔内にはコリネバクテリウムを含めて常在しているグラム陽性桿菌が多くあります。これが誤嚥により落ち込み、誤嚥性肺炎に関与している可能性が出てきますので誤嚥性肺炎かな?という推測が立ちます。勿論、逆流性誤嚥も可能性として残るので、その辺は患者の状況から判断するしかありません。ただし、細菌検査室ではそのような患者情報が無いと判断出来ない場合も多くありますので、聞きたい情報に加えて患者情報の共有は重要になります。またコメントにもありましたが菌交代の可能性もあるので抗菌薬の投与歴も聞き取る必要があります。今回は、肺炎球菌と思われる菌や連鎖球菌(β-ラクタムに感受性が高い)が多く認められているので菌交代の可能性は下がることとなります。
つまり、この喀痰検査の所見からは
・喀痰がしっかりとした条件で採取されたのにも関わらずこの像が確認されていること(口腔内の通過菌の存在が低いこと)があれば見たままの所見で捉えることが出来る。
・肺炎球菌のような菌が見える。誤嚥性肺炎に混じって肺炎球菌性肺炎が混じっていないか考える。また、可能性があることを伝える。
・当然、真の起炎菌が何か知りたいが多菌種が混じり、肺炎球菌含めて分離出来ない可能性があることを伝える。
・肺炎球菌の感染症を肯定するため尿中抗原や喀痰中のcペプチド抗原を調べる。尿中抗原を調べる場合は感度と特異度を含めて、偽陽性や偽陰性となる患者背景が無いかどうかのチェックは必ず行う。
・血液検査や画像所見で患者の重症度を考慮する必要もありますし、レントゲンでは写りにくい膿瘍や胸水の存在を後々見つける必要があるでしょう。また、血液培養は欠かすことの出来ない検査ですね。
・分かりにくい場合は吸引(出来れば気管支鏡下吸引)を行い起炎菌の確定を行う。
他、気付く点があれば教えて下さい。
pureなスメアなら分かりやすいですが、このようなスメアを読むには日頃から読みをつける習慣をつける必要があります。見た像は声に出して読んでいきましょうね。
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コメント
誤讌性肺炎像とゲックラー分類のことではいつも疑問をもっていました!
長く入院していて散々抗生剤を使用後にだされた場合はわかりません!全て誤讌で逃げてるよーで。検査の適不適がわからない毎日です。
吸引喀痰は特に悩ましい検体です
投稿: 小町 | 2011年6月 5日 (日) 13時33分
院内肺炎などは抗菌薬が入ったり、ステロイド入ったりと一般の市中肺炎とは全く違う像になりますので注意です。外科術後は本当に誤嚥性肺炎かどうか確認する作業が多いです。
投稿: 師範手前 | 2011年6月 6日 (月) 01時10分