検査していますか? HLAR(アミノグリコシド高度耐性)の感受性
HLAR(アミノグリコシド高度耐性)腸球菌の検査
サンフォードガイドを眺めていると色々な感染症に対する治療指針が書かれています。詳細を見ていて個人的に気に入っているのは感染性心内膜炎と咬傷の項です。咬傷は咬んだ動物の種類により分かれているので面白いと感じるだけです。感染性心内膜炎は簡易的なガイドラインにしては結構細部に至るまでコメントが記載されている点が気に入っています。
感染性心内膜炎の項はα連鎖球菌、次いで腸球菌の順で記載があります。双方について見ていると記載内容に共通しているのがアミノグリコシドの併用である。CLSIの判定基準では、元々連鎖球菌と腸球菌にはアミノグリコシドの判定基準はありません。では、何故ガイドライン上にアミノグリコシドを併用しろと記載されているかです。一般的な考えはシナジー効果を期待する目的で使用した方が効果的だということになります。α連鎖球菌の場合はPCGのMICが0.12μg/ml以下であるか、0.5μg/ml以上であるかで治療方針が変わってきます。
腸球菌に関してはどうか?
腸球菌で焦点になるのはα連鎖球菌と同じくペニシリンが軸になるのかならないのかでしょう。ご存知の通り、E. faecalisの場合はペニシリンの親和性が良く第一選択薬として使用される機会が多いのですが、E. faeciumの場合はペニシリンの親和性が悪くVCMが第一選択として用いられることが多い傾向にあります。また、セフェムの場合はPBPの親和性が悪く治療に的確に作用するものかどうかは疑問視されているため使用機会は非常に少ない(ほぼ使わない)のが現状です。腸球菌の項に記載があるのがアミノグリコシド高度耐性という文字。高度耐性って何だろうという人も居ると思います。
CLSIの判定基準を参照するとGeneral Commentsの2に『腸球菌はセファロスポリン、アミノグリコシド(高度耐性株かどうかは除く)、CLDM、ST合剤は体外試験で効果が期待出来るような結果が出ても、実際投与すると効果が無いので感受性として返さないように』と記載されています。続けて3には、『ABPC、PCG、VCMとの併用効果判定をするためにGMとSMの高度耐性試験を行いなさい。』と記載があります。
高度耐性試験はどのようにして行うのか?普通のGMやSMの感受性試験で判定してはダメなのか?という疑問が出てきます。前述したように腸球菌に対するアミノグリコシドの感受性試験判定基準は無いので判定自体出来ませんのでこの試験自体は無効だと考えることが出来ます。高度耐性試験ですが、ディスク拡散法を例に取ります。
GMとSMは通常のディスクでは無く、高度耐性用のディスクを用意します。BDのディスクであると通常はGM10という10μg/ml含有のディスクですが、高度耐性用はGM120という120μg/ml含有のディスクになります。GM120のディスクはミューラーヒントン培地(MHA)を使用して、通常の感受性の方法を使い、好気条件の35±2℃で16-18時間培養しディスクの径が6mm以下であれば耐性と判断します。この場合、GM120とはGMのMICが120μg/mlと言っているのでは無いので注意して解釈して下さい。GM120のディスクはGMのMICが512μg/mlのBPを指し、GM120のディスクで耐性であった場合GM512μg/mlが耐性と判定されGMの併用効果は低いと判断されます。この場合はSMの使用を考慮し、高度耐性を検査する必要性が出てきますが、多くがE. faeciumで観察されるということです。SMの高度耐性はSMのMICが1024μg/mlとなりGM高度耐性とは少し異なります。通常、分離される腸球菌のうち2-4割ほどの分離率である高度耐性株ですが、感染性心内膜炎を考慮するような病態での時は実施した方が臨床に即した形での報告となります。また、一部ではβ-ラクタマーゼ産生菌の報告もあり、ペニシリンを使用する場合はβ-ラクタマーゼの有無を検討を考慮すべきでしょう。
米国の感染性心内膜炎のガイドラインを見て見ると、シナジー効果でPBPへの親和性が上がることが記載されています。どうやら、使用中にペニシリンやVCM耐性化が進み、生体弁の場合は弁膜内への移行も考慮し、PBPへの親和性を上げるためにアミノグリコシドの併用は必須だとか。なので、アミノグリコシド高度耐性が無ければアミノグリコ併用が標準になるようです。治療期間は生体弁で標準4週間、人工弁では標準6週間になります。アミノグリコシドなので副作用のこともあり、TDMを実施して治療に役立てるようにとも記載があります。薬効のこと、検査のこと、治療期間のこと、経過のことを含めて考察することは、ICTの活躍の場面では無いかと思います。また、アミノグリコシド高度耐性株でもペニシリンのMICが0.1-1μg/ml下がることが分かっています。体外試験の結果であり実際には使用されないケースも多いと思います。
当院では血液培養から腸球菌が出た場合、β-ラクタマーゼの有無、GM高度耐性は全てチェックすることを数年前より行っています。万が一後で感染性心内膜炎が見つかった場合にも備え万全の体制で診療支援を行っています。やはり、重症化が予測される疾患の場合は、ある程度先読みして検査を実施することも必要になるのでしょう。
写真は血液培養からの腸球菌(E. faecalis)とGM高度耐性試験を実施した画です。GM高度耐性は感受性と耐性を並べてました。腸球菌は連鎖が短く、E. faecalisはやや楕円になり肺炎球菌に類似するのが特徴です。E. faeciumは少し違います。
参考文献)
・CID 2003,36,615-621.
・Circulation 2005,111,e394-e434
・JAC 2004,54, 971–981.
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コメント
いつも、勉強させていただいています。一つ疑問に思うのですが、今回のテ-マ 検査されていますか・・・とありますが、微生物検査においては、かなり施設間差があるように感じます。先生方がブログについてこのようなことについて意見をだされるのであれば、細菌検査にたずさわる検査技師が、皆このような知識を持ち、標準法として検査が確立されるように指導の方法へ導いて欲しいと願います。最終判断で力量が問われることはしょうがありませんが、検査の手段、過程については、どの施設でも同じことをされていなくては・・・と感じる日々です。
投稿: 玄海女 | 2011年5月19日 (木) 22時25分
玄海女さま
ありがとうございます。実はその辺りを注意深く感心を抱いて重症例には出来るだけ丁寧な検査値を返すようにしています。自県の勉強会にて何度も必要性について説明をしているんですが、中々飲み込みが悪いようです。感染症のテキストには普通に記載されているんですが、実際その事例に当たらないと必要性が分からないようです。全ての感染症医でも知らないようなんで、検査技師の教育もそうですが日本の感染症教育として位置付けるのが必要じゃないか?と生意気に感じてます。講演に行ったりして話す機会が有るときは検査しましょうね!と言ってます。どうもレクチャーだけじゃ不足だと思って今回ブログにしました。役不足で申し訳ありません。今後とも発信していきます。
次いでですいません。そちらではどのように工夫されてますか?
投稿: 師範手前 | 2011年5月20日 (金) 07時20分