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2011年3月16日 (水)

後ろや下を向いて検査しないで 培地が無いから検査出来ないのか

東北太平洋沖地震が起きてから、早いもので6日目になりました。

現地では、余震が続き、震災で起きたことが段々と分かりつつあります。

復興の話は未だ大きく取り扱われていませんが、この先どうするのかという問題解決をしていかないといけなくなるでしょう。現地でも特に大きな感染症が話題になっている訳ではありませんが、今(3/15現在)微生物検査をしている中で問題になっているのが試薬の供給では無いでしょうか?

供給が出来ない理由は、各メーカーや問屋さんに直接聞けば良いですが、少し聞いた話や今回の災害状況から把握すると、輸送経路の分断で配達がままならないところ、勤務者の確保のため時間が要しているところ、計画停電のため生産量に制限があるところなど理由は様々です。

状況は日々刻々と変化してきており、明日になれば通常化するかもしれませんし、2週間はかかるかも知れません。阪神大震災の時もそうでしたが、輸送経路の確保についても、被災地への救急車両の通行のため、緊急輸送路の確保のための車両制限に続いて、通常の運送経路の確保をするなど優先順位も出来てきます。その中でも余震の影響も含め、今後の早期回復が望まれるわけです。

ここ数日、良く質問を受けるのが、『培地をどのように使っていけば効率的なのか?』、とか『血液培養の2セットは一時中止すべきだろうか?』などかなり具体的な内容です。

培地は本来1患者、1枚という風な使い方が奨められているが、状況により1枚に2検体塗布することもあるでしょう。1枚に複数検体を塗布するのは、1枚で1検体使用する時と比べて検査の質に違いが無い場合で、選択力の強い培地(カンジダ分離目的のサブロー培地やMRSAスクリーニング用の培地など)や明らかに優位な菌種が発育すると予測される材料(皮膚の膿汁など。特にグラム染色で単一菌種と確認出来る場合は、なお良い)などでしょう。使用する培地の数や使用方法については各施設でプロトコールが出来ているので理由など再確認すれば良いと思います。ただし、この培地の使う枚数についての質問を、メーカーに問い合わせるとか、大学病院に聞くとかは標準的な意見しか返って来ませんので参考にならないことが多いと思います。

それを、明確な答えが出てこないからと言って、聞いた相手を困らせることの無いように、自施設の菌検出状況や材料別検出状況を片手に、頻度の高い菌(膿の黄色ブドウ球菌など)やどうしても外せない菌(便の赤痢菌など)と患者背景を考慮して、一時的に細かい対応をすることで培地不足は解消されるでしょう。

本当に培地が枯渇しそうな場合を想定すると以下のような事例で、一時的に培養をしないなどで対応できるかも知れません。

注意)あくまで参考程度にして、自施設の状況を確認して、臨床医と協議の上決定して下さい。

例1)軽症例であり、入院の必要性が無く外来で経口薬の処方を受け、外来診療で治癒可能と思われる感染症(疾患例:急性扁桃腺炎)

初回は培養不要だが、初期抗菌薬で症状改善が悪い場合は耐性菌の可能性も含めて培養をして貰うのもありだと思います。

例2)グラム染色である程度疾患の状態た起炎菌が想定されるなど、培養を一時的に省略可能な場合(疾患例:有熱性では無い単純性膀胱炎)

例3)感染経路別予防策を徹底するための監視培養(一応ねっ!、と思うMRSAのみの培養)

例4)キャンピロバクター腸炎を疑う場合など(グラム染色を積極的に活用出来る疾患)

また、血液培養についても究極は下記のような考え方が出来る。

例5)急性期市中感染時の血液培養1セットのみで良い(必要な場合は右手に好気培養、左手に嫌気培養を実施。)

ただし、この場合は以下のことが考えられる。

外来など通性嫌気性菌が多く分離されることがデータから確認出来る場合。ソケイ部分からの採血など採血時に皮膚常在菌が検出される化膿性が高い方法での採血。

例6)血液培養が陽性になりにくい疾患は省略してみる。

ただし、この場合は以下のことが考えられる。軽症の肺炎や単純性膀胱炎など。

などなど。施設の大きさ、提供している医療の内容、患者背景などそれぞれの施設で考えて動いていかなければなりません。また、検査室だけで決めてはいけません。必ず、実力のある医師、感染症を理解してくれる医師と良く相談の上、病院の移行として決定してから始めなければなりません。

ここが、難しいところですが、いくら感染症を起こして血液培養が陽性になりそうな状況でも血液培養を採取しなければ、診断も出来ませんし、菌の分離も出来ませんしね。やはり、日常的に有用な検査、適切な検査材料の採取、データ集計をしているかどうかが鍵になってきます。『そんなん出来へんわ!』と調べる前から不平不満を訴えるのでは無く、とりあえず今のような状況では、少し位犠牲を被り頑張らないといけないように思います。

とやかくメーカーに問い合わせするのでは無く、自らの力で、少し考えてみてはどうでしょうか?

また、培地は無くなったら粉末を購入して自分で作れば良いと思います。さすがに血液寒天培地をというのは酷かも知れませんが、出来る範囲で対応して、出来ないものは周囲と相談して自分ひとりで抱えないようにしましょうね。

Photo 抗菌薬投与前(グラム陰性桿菌、たぶん腸内細菌)

Photo_2 抗菌薬投与後24時間(菌が抗菌薬で消失≒抗菌薬が効果的な可能性あり)

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コメント

師範手前さま

早速のアップありがとうございます。
当院でもすでにボトルや培地の入荷が難しい状況となっており、対策を考えていたところです。
血培はすでに、1セット(2本)採取に切り替えましたが今後は一本採取をしなくてはいけなくなるかも知れません。
培地もきびしい状況になると思いますが、本文にあるような工夫をしてなんとか乗り切りたいと思っています。
どの施設も同じだと思いますが、いまできるもっともよい方法を考えていくしかありません。

投稿: 指導員手前 | 2011年3月16日 (水) 08時36分

突然失礼します。
静岡県の病院に勤める検査技師です。
いつも、勉強させていただいております。
当院も血液培養のボトルの入荷が止まってしまい、1セットの採血を余儀なくされております。
 感染対策室へ「好気を右腕、嫌気を左・・・」の話をさせていただいたところ、臨床に広報するのに文献はないか?といわれてしまいました。
 もし何かありましたら、教えていただけたら幸いです。
ほんとうに、突然ぶしつけなお願いで申し訳ありません。

投稿: fumi | 2011年3月17日 (木) 20時46分

fumiさま コメントありがとうございます。
好気を右腕、嫌気を左腕・・・の件に関しては、エビデンスはありません。通常、腕を変えて2セット採取する意義はコンタミかどうかの判断が殆どです。2セット採取するのは採血量を増やすと検出感度が上がることと思います。今の不足という状況を考えた場合、より多くの患者さんで血液培養を実施しようと考えれば1セットしか採取出来ない状況が回避出来ないため、前述した2つの状況を考慮して応用していくしかありません。これはルチンをして、自院のデータを集計し、起炎菌の傾向を考えて、好気しか発育しないぶどう糖非発酵菌やカンジダ、嫌気しか発育しない嫌気性菌を症例より意識して貰うなど、現場で分けて採血して貰うなどの工夫が必要になります。当然、敗血症や髄膜炎などの重症感染症が予測される場合は2セット採取を通常通り奨めて貰えればと思います。
広報するには、そのような文献を添えてみると良いと思います。個人的には長崎で開催された臨床微生物学会で報告したものがあります、それはシスメックスの下敷きにまとめていますが、バクテアラートの成績なので微妙に違うこともご了解下さい。
かならず、エビデンスは?と食い下がる方々が出てきます。海老固めが好きな方たちです。無いなら作るしかありません。ここが腕の見せ所ですのでがんばって下さい。

投稿: 師範手前 | 2011年3月18日 (金) 07時22分


早速のお返事ありがとうございます。
自分達のデータの集積や、経験から、良い方法だと
思っても、なかなか導入してもらうのは難しいです。

でも、1セットにしてください・・・と病院サイド
から言われるままに、そうですね。。。で終わるのは

検査技師として情けないとも思います。いつでもより良い
方法を提案できる技師でありたいと思います。

ありがとうございました。

投稿: fumi | 2011年3月18日 (金) 22時03分

fumiさま
うーん。何とも難しいですね。全てがそうで無いとは思いますが、微生物検査室の言うことに耳を傾けない医師は多いと思います。そういった愚痴をいくつも聞いています。でも、微生物検査室が無ければ感染症診療は出来ないことは忘れずに居て欲しいし、誇りに思って良いと思います。ただ、日常的に微生物検査の結果が活かせれる状況なのかどうかで、こういった緊急避難的な状況は変わります。諦めずに何度も折衝して下さい。ただし、日本語文献や自施設のエビデンスはどこまで通用するのか分かりません。実際「日本語は見ないよ」という方もいらっしゃいます。英語文献が良いとは限りませんが、査読が厳しいのは間違いないですのでそれだけ崇高な投稿が多いのは確か(でないのもありますが)です。必ず、引用となる英語文献は数個読み、自施設との比較検討はし、結論をシステマティックにすることは臨床検査技師にも必要なことです。つまり患者に向けて有益な情報が提供出来ているかどうか、自分の出したデータにどれだけ責任が持てるのか?というストイックな部分にかかってくるわけです。こちらのデータで良ければお送りしますし、掲載はする予定ですが、そのみち直ぐに使えるかどうかは未知数になります。
1セットで止むを得ないのは、1セットも採取出来ない人がもし採取すると陽性になる確率が、1セット⇒2セットへと向上出来る確率より遥かに高い訳です。1セットの左右別々採取においては完全に応用例です。2箇所採取が面倒臭いのであれば清潔に消毒し、汚染の少ない場所で採血と適切なタイミング(悪寒戦慄時)にすれば問題の無いことです。採取に適切な時間、場所など検討してリトライしてはどうでしょうか?左右別々は飲めないが、清潔操作をしっかりしてもらうようなリコメンドを追加でコメントする(必要があればキュミテックの血液培養ガイドラインを参考にするなり;本屋で売ってますよ)なりは不可能なのでしょうか?
すいません、施設の状況を把握出来ずにずけずけ言いますがご勘弁下さい。また感想聞かせてください。
こちらは、血液培養ボトルが無いことと生培地が無いことの対策に追われ、医学的根拠と併せて検討していたところです。未だ帰れそうにありません。こちらも頑張っています。頑張れ。

投稿: 師範手前 | 2011年3月18日 (金) 23時00分

初めまして。突然の質問で失礼します。
私は細菌検査1年目の新人です。まだまだわからないことだらけですが、細菌検査を他の新人2人で検査している状態です。

今回の震災の影響で私たちの検査室も生培地の確保や試薬が手に入らなくなっていてどのように対応すればよいのか悩んでいます。
しかし血液培養ボトルがもう在庫がなくなりつつあり、1セットのみ、の検査でもあと10件できるかどうかの状態です。
このままだと血液培養の検査自体受けれなくなってしまうのは時間の問題です。
私なりにあるもので検査できないかと考えたのですが、例えば血液を遠心してバフィーコートあたりを採取して培養する。ような内容の事を最悪ときの代替検査法として出来ないものでしょうか??
といっても血液寒天も入る見込みはなく残りわずかで、羊血でも入荷できるならば血寒も作ろうか、という状態です。

もしよかったら、何かありましたら知恵をかしてください。
突然にもうしわけありません。
でも、ここ『グラム染色道場』をみて、みんな困ってるし、みんな頑張ってるんだ!!自分も出来ることしなきゃ!って勇気でました。
ありがとうございました。

投稿: mondenkint | 2011年3月20日 (日) 02時30分

mondenkint さま
お困りでしょうか。全国的に皆さんそのようです。日ごろから採取数が多い施設は本当に深刻なようです。
さて、血液培養の代替ですが、バッフィーコートのスメアは感度が低いと思いますので避けた方が良いと思います。まだ、液体培地を利用して血液を入れるのが良いのでは無いかと思います。だいたい10-20%の終濃度になるように入れて、初日は3回、2日目以降は朝夕の2回確認をして、最終的に寒天にサブカルチャー(またはグラム染色)し確認することで対応出来るでしょう。腹部感染症以外は嫌気性菌の可能性が低く、緊急避難措置として省略も可能かと思います。羊血液も入手出来れば作成するのも一つの回避策ですが、グラム染色や培養プレートを半分ずつなど緊急的な方法もあると思います。頑張ってください。

投稿: 師範手前 | 2011年3月22日 (火) 06時04分

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