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2011年1月 1日 (土)

目的は一緒だと思う 【本稿は長いのでゆっくり読んで下さい】

あけましておめでとうございます。

本年も本ブログを宜しくお願いします。

今年で4年経ちました(http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_cd05.html)長いようで早い月日です。

さて、年始最初の話題です。

先日、岐阜大学の大楠先生の講演を聞きに行きました。

大楠先生と言えば、菌種同定にもう欠かすことが出来ない方です。同定と言えば、細菌検査室で全てしなければならないことでありますが、どうしても菌種同定が難しい細菌に遭遇することが多いです。

日常的に検出が稀な細菌は臨床微生物学的には情報も少ないため、今後同様な事例と遭遇した場合に非常に大きな情報となり、対象患者に向けられるでしょう。

なので、患者さんの重症度にもよりますが日常検出が稀な細菌の同定は非常に臨床的意義が高いのです。

大楠先生のところは、培地に発育して菌名同定が困難で困った症例のみならず、検査材料(特に無菌材料)からの直接菌の同定を実施してくれます。

下記は先日、当院からも菌種同定の依頼をさせて頂いた検査材料です。

材料は【心嚢液】

患者さんは心タンポナーゼで緊急入院されてきました。黄色の膿性の心嚢液が出て来たためグラム染色を急ぐことになりました。基礎疾患はCNPAと心不全がありました。外科手術はありません。

通常、こういう場合は何を探すのでしょうか?ぶどう球菌を探すのが普通の考えでしょうか?そうです、黄色ブドウ球菌は体中のあちこちから検出されることが多く、特に市中感染症の場合は由来が不明なものが多いからです。

ブドウ球菌を探そうとしていると『何か違うやん?』と思うスメアに出会います。

Fusobacterium600 ×1000(GNR)6002jpg ×1000(GPC)

そうです。ブドウ球菌のような染色性の良い中型の球菌が無く、どちらかと言うと非常に小さな(染色性の悪い?)球菌に加えて、グラム陰性桿菌。

グラム陰性桿菌は、両端が細く、染色性が悪い菌でした。この場合はFusobacterium nucleatumを疑いますよね。頭の片隅に考えておかないといけない細菌ではCapnocytophagaでしょう。

グラム陽性球菌は何でしょうか?染色性の悪い小さい球菌と言えば嫌気性菌で、Fingordia magnaやMicromomonas microsやStreptococcus milleri groupを押さえておかないといけないでしょう。S. milleri groupの場合は好気培養(炭酸ガス)でも1日で何らか確認が出来るでしょうが、前述の2つの細菌は難しいでしょう。しかも嫌気性菌の中でも発育が遅い細菌。

このように、推定菌種や菌種同定までかかる時間が臨床医へ伝えておくべき内容でしょう。

グラム染色報告時に、嫌気性のグラム陽性球菌と陰性桿菌の検出が疑われ、グラム陽性球菌はF. magnaまたはM. micros、グラム陰性桿菌はF. nucleatumが推定されること。過去のアンチバイオグラムからペニシリンの感受性は良いが、一部βラクタマーゼ産生菌が存在することを伝え、ABPC/SBTの選択になりました。

同時に患者情報を追加で聞いたところ、既に1日経口抗菌薬を数日投与されたとのこと。全て発育出来るかどうか不安です。

いつもそうですが、胸部レントゲンとCTは見るようにしております。今回は心拡大を認めているが胸水は認めていませんでしたが、誤嚥性肺炎像と義歯が映っていました。そのことについて検討をして、喀痰を染色すると下記のようになりました。

6001 原因と思われる喀痰のグラム染色

誤嚥性肺炎を疑うpolymicrobial patternに貪食。誤嚥性肺炎が起因になっているかわかりませんが、義歯がハイリスクとして考えれる呼吸器に何か原因があるのでは無いかということに。呼吸器の場合もF. magnaまたはM. micros、F. nucleatumが主たる病原菌になることが多く、推定菌としては繋がってきます。

結局、F. nucleatumは菌が直ぐ検出でき同定も出来ましたが、陽性球菌は検出出来ませんでした。そこで、遺伝子検査をお願いしました。結果は下記のようでした。

S720_mmicros_fnucleatumpcr やって頂いた遺伝子検査

そうです。グラム染色の読みとほぼドンピシャでした。少しうれしい。そういえば、大楠先生も遺伝子検査をする前にある程度菌種情報を頂くのが嬉しいとおっしゃってました

先日の講演に戻りますが、大楠先生は患者背景を聞いて大体どんな細菌が発育してくるのか想像が付くようです。以前は市中病院で働いていたものがベースとなっているのでしょうか。

私はグラム染色で起炎菌の推定をして、大楠先生は遺伝子検査で菌の確定をしています。目的は何より起炎菌を早くして、早く適切な治療開始し、患者予後を良好に持っていけるか、また微生物検査室の質を上げることじゃないかなと聞いていました。目的は一緒だなと改めて感じました。

ただ、なんでもかでも遺伝子検査をすると判ることも多いでしょうが、大体の推定菌が判っていくような簡単な生化学的性状検査は実施してから相談することをお勧めします。病院では微生物検査でしか判らない情報も多いでしょうし、付加価値を高めておくことが大事です。本当に最近は詳しい菌種情報を教えてくれる先人が少なくなっています。教科書や参考書片手に1つ1つ確実に同定手順など覚えておくことが必要ではないでしょうか。

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コメント

始めまして。熊本で歯科医院を経営しております生田図南と申します。
口腔内のプラーク(バイオフィルム)の構成要素の中に真菌が関係していると思っております。その中でCandida.albiansが最も関与しているのではと思うのですが、3200倍の位相差顕微鏡でプラークを確認した場合に大きい糸状のものが確認されるのですがそれが本当にカンジダなのか、線状細菌なのかわかりません。歯周病学の先生は糸状菌であり、真菌ではないと主張されます。細菌学の本では線状の細菌はFusobacterium nucleatumであると記載してありますが顕微鏡では活動性を認めません。
一度、お話をお伺いしたのでコンタクトをお願いします。

医療法人社団南生会 生田歯科医院理事長 生田図南

熊本県天草市河浦町白木河内220-1
TEL0969-77-0039

投稿: 生田図南(いくたとなみ) | 2011年1月27日 (木) 12時24分

生田先生

返信が大変遅くなりました。
微生物検査をしている時に、顕微鏡学的に微生物を観察する際に顕微鏡の倍率はだいたい400倍から1000倍で観察しております。それより大きい場合は微生物の大小について観察し難いため、それのみでの菌同定はし難いものになります。カンジダであれば培養も容易であると思いますので一度培養と相関を取ってみてはどうでしょうか?元々non-criticalな部分ですし、何が出ても可笑しくないのではと考えています。

投稿: グラム染色道場師範手前 | 2011年2月 1日 (火) 18時51分

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