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2010年12月20日 (月)

肺炎球菌の由来

細菌検査室に相談がある内容としては、不明熱が多く血液培養の結果も含めて何らかの起炎菌の検索についてが多くあります。発熱疾患の多くが感染症であり、中に細菌も混じってきます。また感染症以外の疾患(例えば、悪性腫瘍とか自己免疫疾患など)も不明熱の原因になります。
とりあえずしなくてはならないのは、血液培養では無いでしょうか?ただし、血液培養は全てをカバーするものではありませんし、発熱してなくても血液培養を採取しなければならない状況は多々あります。
先日、こんな症例に遭遇しました。不明熱で転送されてきた30代の男性です。既往に目立つものは特にありませんが、良く聞くと頭痛があります。3日ほど前から喉が痛かったとの主訴がありました。貴重な情報です。
どうも頭痛の状態が酷いようで、髄膜刺激症状の確認をすると項部硬直がありそうです。ルンバールをして有核細胞数を見ると30個(PMN40%)、髄液糖は75mg。細胞は上がっているがウイルス性も否定出来ないとのことでしたが、グラム染色をすると下記のような菌が出ました。
6002 ×1000(髄液)
少し形が歪ですが、二双性の球菌=肺炎球菌のようです。尿中抗原を使ってみると陽性に。一応ラテックスもしたが同様の結果であった。どうやら、肺炎球菌性髄膜炎のようです。そのまま主治医へ報告すると少し驚いた風に返答が返り、最後に「ありがとう」と。ナイスです。
抗菌薬はPAPM/BPに決まりスタート。デキサメサゾンも3日間投与することになりました。
担当は研修医になり、病棟に上がりディスカッションです。内容はフォーカス探し。
肺はCTまで撮影していますが、特に何も見つかりません。ここで肺炎は除外と・・・。
次は耳鼻科疾患です。副鼻腔炎の単純CTでチェックをすると篩骨洞にどうやら怪しげな液貯留が。副鼻腔炎はありそうだ。中耳炎のチェックもしましたが、これは除外でした。CTを良く見ると海綿静脈洞炎もありそうだ。でも、篩骨洞炎の場合は海綿静脈洞炎は起こりにくいはず・・・。篩骨洞炎の合併では視力障害や眼窩蜂窩識炎も起こすので、そのチェックも怠らず行うも特に異常所見はありませんでした。
翌日造影CTをすると篩骨洞と蝶形骨洞にも怪しげな液貯留が確認されました。同じ副鼻腔炎でも蝶形骨洞炎の場合は海綿静脈洞炎は良く起こします。これで繋がりました。非常にレアな症例と思いつつ、コモンな菌の良くある感染症ということが分かりました。副鼻腔炎って外来治療では?と思い調べていると、悪性の場合は手術適用になり、入院も良くあるとのこと。今回は骨破壊も無く順当に治療が進みそうで何よりです。
で、PAPM/BP治療4日後に副鼻腔炎の排膿をしたところ、未だ菌が居ました。下記を参照。
このスメアでは陰性菌として見えてしまうことがポイントです。すでに抗菌薬の作用を多く受けていますのでちゃんと染まらない可能性があります。しかし、既にフォーカスや起炎菌ははっきりしている訳で肺炎球菌かな?という推測が付きます。今更成人でモラクセラやインフルエンザ菌が新たに出てくる可能性はもっと低い訳で。培養で発育しないかもしれないくらいの勢いで考えないといけませんね。
肺炎球菌はしつこい菌です。どこから感染したか分かりませんが、家族歴を聞くとどうやら子供が急性中耳炎の治療中だそうです。怪しい。血清型を調べると19Fだった。19Fは成人に少なく小児に多い莢膜血清型。どうやら子供から感染した疑いが強まったが、患者本人が保菌していた可能性も少し残ることになり、後は患者さんの免疫状態のチェックを細かく行い調査終了です。
この時期は肺炎球菌感染症が増えますよね。即座の情報収集が大事だなあと毎年感じるこの頃です。
6001_2 ×1000(副鼻腔:紅くて判りにくい)
6002_2 ×1000(副鼻腔:これならなんとか)

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