続き、NDM-1の検査について
検査法に関する詳細です。
http://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(10)70143-2/abstract
1. 菌の同定:自動機器(BDのPhoenixシステム)や簡易同定キット(API-20E)。
2. 薬剤感受性試験:英国の感受性基準に準拠して微量液体希釈法。ここには、カルバペネムの感受性についての詳細は記載されていませんが、JCMの報告で見る限りertapenemの感受性を見ているようです。
3. メタロβ-ラクタマーゼの検出:カルバペネム耐性の腸内細菌と確認した場合は、ホッジ変法テスト(スクリーニング薬の明記はありませんが、感度の良い恐らくertapenem)かimipenem+EDTAの阻害、E-testのMBLスクリーニング用でカルバペネマーゼのスクリーニング検査をして、PCRとトランスコンジュガント、PFGEを実施しています。一部の地域ではコンジュゲート掛からないという奇妙な結果が出ています。ここで、KPCやOXAは除外される。
4. その他:ESBL(CTX-M15)やAmpC(CYM-4)も含み、PCRで遺伝子型を確定しないと複数の薬剤耐性を持ち合わせている可能性がある。
分離状況ですが
英国では2008年からカルバペネム耐性の腸内細菌が多く検出されるようになってるが、NDM-1の占める割合は未だ低かった。2009年になるとNDM-1の発生率はカルバペネム耐性の腸内細菌のうち44%も占めている。しかし、気づいて欲しいことは残りの56%はKPC、OXA-48、IMPとVIM型のカルバペネマーゼであったこと。
検出された腸内細菌の菌名はEscherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Enterobacter cloacae、Proteus spp.、Morganella morganii、Citrobacter spp.にProvidencia sp.であった。
英国で検出された菌株の中にM. morganiiはMEPMに感受性のものがあり、AZTも多く感受性であった。また、他の薬剤耐性(CTX-M15やCYM)も複合して保有していたと書いている。
上記で日本と違うのは、
① 日本はCLSI基準が殆どであり、英国基準法とは違う
② 日本の感受性試験にはertapenemは搭載されていない。MEPMで代用は出来るが、ertapenemより感度が落ちる可能性がある(KPCは明らかに低い)。
http://jcm.asm.org/cgi/content/abstract/45/8/2723
③ 酵素阻害はEDTAによる金属イオンをキレートする方法が基本。日本は2-MPA法(SMA法)による酵素自体の阻害。ただし、NDM-1と2-MPA法を検査した報告は無い。しかし、今まで2-MPA法は金属を中心活性に持つβーラクタマーゼの阻害は全て出来ているため、厚労省の事務連絡では今回も検出出来る可能性は高い予測とされている。2-MPA法はCAZとの間で起こる阻害を確認することでメタロβ-ラクタマーゼを検出する方法。今回のようなCMY-4やESBLが複合するケースではIPMを同時に測定して阻害を確認した方が良いと思われる。しかし このNDM-1は、SMA法では確実な阻害帯が出来ずに見落とす可能性があることが示唆されている。この場合は、SMA法を使用する場合は25mmよりディスクを近づけるのがコツだそうですがEDTA法の方が今のところ検出可能。詳しくは厚労省の院内感染対策サーベイランス事業のHP http:www.nih-janis.jp/ をご覧下さい。9/7追加情報アップ(9/2の欄)
http://jcm.asm.org/cgi/content/abstract/38/1/40
特に自動機器はPhoenixシステムを使用しているが、MicroscanやVitek2ではOXAのコメント(Alert)が掛からない場合があるので便宜上使用している可能性がある。
参考)http://jcm.asm.org/cgi/content/abstract/48/8/2999
また、厚生労働省の通知では、カルバペネ、キノロン、アミノグリコシドが全て耐性の腸内細菌をSMA法でスクリーニングして、IMPやVIMをPCRで除外して精査するので連絡してね。というものです。このLANCETの報告を見ている限り、この基準で行くとMEPMに感受性の場合、キノロン感受性の場合は引っかからないで報告から漏れることになります。また、IPA陽性腸内細菌群はカルバペネムのMICはシフトしますので、ホッジ変法試験をしないと誤同定される可能性大になる。また、ESBLやClassC型β-ラクタマーゼを同時に持つことより、SMA法だけするのは少しナンセンスかも知れません。
参考)http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/ndm-1.pdf
なお追加が必要と思われる検査ですが
5.ホッジ変法テスト:E.coliATCC25922のマックファーランド0.5の10倍希釈液をMHAに塗布して、中心にカルバペネム(日本はMEPMが良い)を置き、試験菌を適当量、白金線を用いディスクの縁から外側に画線する。この時、対象として既にカルバペネム陰性の細菌を置く(メタロ陰性でカルバペネム耐性の菌やEnterobacterのAmpC過剰産生株など)。陽性の場合は、中心のカルバペネムの阻止炎が歪む(クローバー状というらしい)。可能な人はボロン酸阻害試験をして、KPCのスクリーニングもすると良いでしょう。
http://www.ndhealth.gov/microlab/Uploads/HodgeTest.pdf
参考)Clinical and Laboratory Standards Institute. 2009 performance standards for antimicrobial susceptibility testing. Nineteenth information supplement (M100-S19). Wayne, PA: Clinical and Laboratory Standards Institute; 2009.
万が一出た場合の対応(KPCが出た場合を参照)http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5810a4.htm
① 過去6-12ヶ月遡り同様の菌が出ていないかデータを掘り起こし調べる。
② 直ぐに耐性菌検査法についてのプロトコールを確立させる。
③ ハイケアをしている施設で注意(広域抗菌薬を良く使うので?)、定期的(例:1週間おきなど)に監視を行う。
何れにしても1度研修しないと何を書いているのか解らない人は沢山いるかな?
再度掲載
2-MPA法とホッジ変法試験
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