無理して起炎菌を決定しない局面
5/19の記事の補足から。http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-65a1.html
喀痰でグラム陰性球菌が見えたからMoraxella catarrhalisという初心者にありがちな考えがあります。別に完全否定する訳ではありませんが、白血球の浸潤やフィブリン様の炎症背景が広がっている場合でなければグラム陰性球菌=M. catarrhalisと結びつけるのは難しい局面が多いです。
なぜなら、口腔内には非病原性ナイセリアが多く存在するからです。特徴は菌が集族していることが多かったり、扁平上皮に付着して見えるなどから見分けが付くことが多く、M. catarrhalisのような白血球内に貪食された形で見えない場合には、直ぐに知っている知識(肺炎の起炎菌としてM. catarrhalisを知っていること)と結び付けないことが大切です。材料評価が既に悪いのですから、口腔内の非病原性ナイセリアが出てくる可能性が高いので。
ただ、その場合は、材料評価が悪いので信頼出来る推定菌は見つかる要素が少ないという理由が背景にあります。そうなれば培養結果の信頼性も下がることが予測され、材料悪いよね・・・と何気に見るグラム染色も活かせることの出来る結果を導けます。タダでは下がらないことです。
下記の写真はその写真です。上記のアドレスの記事を参照に比べて下さい。
非病原性ナイセリアの近くには口腔内の常在菌がありこちに見られるのもコツの一つでしょうね。
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コメント
これまで、喀痰でGNDCを見たら、まず間違いなくM.catarrhalisと判断してきました。起炎菌かどうかは、貪食や複数視野で同じように偏りなく存在するかで判断していましたが、‘フィブリン様の炎症背景の広がり’というのも参考になるのですね。あの、薄ピンク色のネバーッとした糸状のものですよね?
先日、こんなことがありました。グラム染色にてグラム陰性双球菌のような、グラム陰性‘単’球菌のようなのも多いし、はたまたグラム陰性桿菌もある。複数菌の感染??と思いながら、培養に提出したら、ACINETOBACTER BAUMANNII という結果でした。初めての細菌で、本で見るとこれもナイセリア属なのですね。しかも桿菌のように見えるものもある、と。僕が見たのは相当はっきりした桿菌の形でしたが、そんなに変形するものでしょうか?ほかにGNRに相当する細菌は培養されてきませんでした。これは定着菌ではなく、起炎菌と判断して治療したのですが。
投稿: 三省 | 2010年6月 8日 (火) 05時00分
三省さま おはようございます。
さてAcinetobacter baumaniiですが、分類はグラム陰性桿菌。表現はグラム陰性の球桿菌。この菌はブドウ球菌と間違うことがあることで有名です。普通市中肺炎は少ないですが重篤な報告例も多いです。SBTが非常に良く肺炎ではABPC/SBTが効果的のようです。人工物が好きなぶどう糖非発酵菌で緑膿菌よりは重要視されていません。症状ありきですが、年に何回かは市中感染例を見ます。でも入院歴や人工物は装着されている例が多いです。
http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-5e4e.html
投稿: 師範手前 | 2010年6月 8日 (火) 07時37分
ちょっと前に掲載されていたのですね、記事を読んで、あ、読んでいたのにな、と気がつきました。失礼しました。
これまでM.catarrhalisと判断して、違っていた人が結構居るかもしれませんね。でも、今回の症例は人工物も何も入っていない36歳のもともとは元気な方でしたので、すこし驚きました。
実は、GNCB、GNDC、GNR-Mと見えて、少し困って、AZMを選択して処方していました。内服して5日目に、それまでよくなっていたのがまたぶり返して熱が38.6度出た、と再診され、喀痰グラム染色をしなおしたらGPDCが沢山見えて、AZMの効かないGPDC?PRSPにも有効という触れ込みなのですが、ちょっと対処に困って、右下肺野には肺炎像も見えたので、菌交代でしかも効きにくいものが出たと思い、LVFX500mg/日に変更しました。
幸いその後順調によくなり、LVFX開始の次の日のグラム染色ではすっかり細菌は消失しており、ホッと一安心。培養結果ではAZM耐性のS.pneumoniaeでした。
臨床はいろんなことがあり、ですね。いつまでも、1例1例を大切に行きたいと思います。
投稿: 三省 | 2010年6月10日 (木) 18時25分