発熱、下痢、下腹部痛・・・・そしてキノロン
先日こんな症例がありました。
76歳男性。主訴は発熱、下痢、下腹部痛、血便。この時期なんで、下痢=ノロという考えもありますが、この患者さんは下腹部痛が酷いのに併せて1週間前から胃腸炎で近医に受診していたようです。近医で処方を受けたのは、胃腸炎なんでLVFX。3日後に症状悪化してセカンドオピニオンがありました。抗菌薬投与後⇒下痢が酷くなる⇒粘血便という相談にて外来で偽膜性腸炎を疑うとのことでした。腹部エコーでも大腸全般に浮腫性病変を認めたようです。
私は、粘血便なので、キノロンの著効しないキャンピロも考えないと・・・と思い、染色するとこんな像です。確かに白血球が多いのや、腸粘膜上皮?と思しき細胞の剥離がありました。粘血便+白血球=サルモネラ、キャンピロ、赤痢+αと絞り、依頼もあったこともあり、一応+αのCDトキシンの検査をしました。昨年販売されたB型まで検出できるキットを使用して検査を実施しましたが、残念ながら陰性。グラム染色の結果を待っていた主治医に『グラム染色上は白血球が多数見えるので、下部消化管の感染菌、例えば粘血便なのでキャンピロも疑わしいですよ・・・。毒素は陰性ですが偽膜性腸炎も可能性は残りますがね・・・。あと、グラム陽性のレンサ球菌の貪食もあり、もしかして溶連菌も出るかも?、どちらにしても培養待ちでしょう。』とお話しました。期待していたコメントだったのでしょうか?
その後、患者さんは緊急でCFを実施すると、主治医は『やっぱり』という感じだったのでしょうか?直ぐに細菌室に電話があり、『びっちりと偽膜ありました。ありがとうございました』と。お役に立てなくて申し訳なかったかと思い、わずかに在庫していた旧のA型のみ検出出来るCDトキシン検査キットをすると、速攻陽性ラインが・・・。『げげっ』と思い、主治医に『旧キットでA型陽性でした。』と解離した理由とともにお話しました。グラム染色で見えていた陽性球菌の貪食は(仮説)
偽膜形成⇒粘膜の破壊⇒基底膜の暴露⇒常在菌(腸球菌)の貪食
に感じました。誤嚥性肺炎の応用だと感じた一瞬です。次回の糧にしたいと思います。
キットが解離した理由は何と説明したら良いでしょうか?皆さんで考えてください。一応、こちらは納得の行く内容を説明出来たかと感じてます。
補足ですが、ポイントは
①キットの原理 ②キットの感度 になります。
新しいキットで期待しているだけにショックな症例です。
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コメント
ちょこちょこっと調べて分かった範囲から類推します。
まずトキシンAは腸管細胞からの分泌を増やして主に下痢を起こす原因となり、トキシンBは細胞破壊を起こし粘血便の原因となるそうです。
トキシンAを検出するためのキットは現在日本で2種類販売されており、それは酵素免疫法によるものであり、感度が高いそうです。
トキシンA・B両方を検出するキットに関しては情報が得られなかったのですが、おそらく2種類の物質を同時に検出するという目的のため、酵素免疫法ではなく他の方法を採用しているのだと思います(完全に類推です)。そのため感度が犠牲にされて、提示していただいたような状況になってしまったのではないでしょうか?
投稿: highgear | 2008年1月17日 (木) 18時17分
highgearさま 続けてのコメントありがとうございます。
さて、勉強されていますね。非常に関心するばかりです。
A型とB型の毒性は若干異なり、今までB型の検出は出来なかったのが悩みのたねでした。PCRやら保険外の検査では検出可能であったのですが、以前は偽膜性腸炎の半分はB型だったという報告あります。A型、B型の混合ですが検査出来るものがhttp://www.nissui-pharm.co.jp/information/pdf/20070524.pdf#search='TOX A'
で参照出来ます。
A型の感度はこっちの方が良いと記載もありますし、陽性期待値もこちらの方が良いようです。今回解離した理由は感度が悪いキットですが、原理の問題にあるのではと予測しています。検討の数字では表せない何かがあります。もう少し考えましょう。これは、臨床現場で陰性の結果を貰って、次のアクションを考慮するには必要なものになるのではないか?と思っておりますが。
投稿: 師範手前 | 2008年1月17日 (木) 19時56分