肺炎球菌見逃してませんか?
本日はこんな症例です。
患者は37歳男性です。発熱、頭痛、咳嗽を認めたので来院。生来健康で会社員です。意識障害はありません。
特記すべき事項もなく夜間に来院されました。入院時のCRXにて右下肺野に浸潤影あり。大葉性肺炎でとりあえず入院になりました。
主な検査所見はWBC21,700、CRP21.7、BUN13、SpO2 98、血圧低下認めず。
とりあえず当直に肺炎球菌尿中抗原実施したら陽性。レジオネラの尿中抗原は陰性。マイコプラズマIgM抗体も陰性で、塗抹にこのような菌がちらほら。一部貪食も認めました。
まあ、以上の情報から『肺炎球菌性の肺炎』と思いますよね。
肺炎球菌のスメアでの確認といえば・・・
①グラム陽性球菌で双球菌
②莢膜が染色されないで抜けて見える
③好中球やフィブリンが多数確認できる
ではないでしょうか?
でも莢膜は全てが抜けて見える訳ではありません。このように菌周囲が紅くなるのも莢膜の証明にはなります。みなさん見逃してませんか?
素朴な疑問なのですが・・・、この患者って入院要るの?
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コメント
>素朴な疑問なのですが・・・、この患者って入院要るの?
私も、同じように考えますが・・・・
確かに一般検査所見、WBC、CRPは高いですが、これは遅れて出てきている炎症反応の現れに過ぎず、患者さんの発熱以外のバイタルは比較的安定しているのではないでしょうか。
トマツからでは、もはや激しい炎症像は観られず、正直なところ検体の品質が間違いなければ肺炎球菌による感染の終焉に近い印象と思われます。
炎症細胞の残骸のみと、大型細胞であるマクロフャ-ジの出現が目立ちます。また、バックグランドがややピンク色や橙色をおびた粘液でおおわれ、肺炎球菌の莢膜もその影響でしょうか、きれいにピンク色がかって観えている時は、急性炎症がもはや無いと判断してもいいように思います。
師範手前さま言われるように、漠然とダイレクトスメアを観るのではなく、日ごろから注意して観察してゆくことは非常に大切に思っています。
肺炎球菌尿中抗原-陽性
レジオネラ尿中抗原-陰性
マイコプラズマ-IgM抗体陰性
塗抹鏡検では肺炎球菌(疑)もちらほら、一部貪食も認めました
ここまでルールアウトできているし、入院までは必要な患者さんとは思えないのですが?
経口抗菌薬ですが、ペニシリン耐性まで考えるのであれば、セフェム系、ニューキノロン系。
ペニシリン感性を考えるのであればエステル型アンピシリンプロドラッグでしょうか。
投稿: 倉敷太郎 | 2007年9月13日 (木) 12時30分
こんにちは.
この患者さんは,医学的には入院適応はおそらくないでしょうね.
例えば日本の市中肺炎ガイドラインでは,血圧,脈拍数,呼吸状態,意識レベル,年齢などが入院が必要かどうかの判断基準になりますので,全く入院の基準には当てはまりません.でも,多くの臨床医は「高いCRPにびびって」入院を勧めてしまうのが現状です.
さて,この肺炎球菌,いわゆる「ムコイド型」の肺炎球菌ではないですか?
緑膿菌のムコイド型の塗抹像とよく似ているな,と思ったもので...
投稿: ID conference管理人 | 2007年9月13日 (木) 23時08分
ID conference管理人さま、おつかれさまです。
ムコイド型肺炎球菌ですか、培養で生えてくるコロニーは特徴的な盛り上がりと粘りがあるムコイド型を形成しますよね。血清型は3型になるのでしょうか、であれば、PRSPの可能性少ないですね。ときどき当院でも、お目にかかります。
さて、そのムコイドですが、実際にグラム染色で染まってくるのか私は知りません。
ご存知の方、ご教授下さい。
投稿: 倉敷太郎 | 2007年9月14日 (金) 16時17分
倉敷太郎さま
全くご指摘のとおりで,ほとんどのムコイド型は血清型3型で,そのほとんど(90%前後)は,ペニシリン感受性です.でも,マクロライドには耐性です.この辺は,肺炎球菌の疫学のちょっとマニアックな話になります.なぜ3型の肺炎球菌はどれもこれも感受性が似通っているのか?
実は,日本の血清型3型の肺炎球菌を,北は北海道から南は沖縄まで,パルスフィールド電気泳動で遺伝子型を比較すると,「ほとんど同じ」なのです.当たり前といえば当たり前,不思議といえば不思議なこの現象,私が最初に発見したので,ちまちまとこういうところで宣伝しています.論文も一応あります.
投稿: ID conference管理人 | 2007年9月14日 (金) 22時34分
ID conference管理人さまおはようございます。
非常に勉強になりました、ありがとうございます。
そうですか、日本の血清3型の肺炎球菌は,北は北海道から南は沖縄まで,ほとんど同じなのですか、いや私としてはとてもびっくりいたしました。大変重要なご研究、頭さがりました。
日本でのこの3型肺炎球菌の単一性は世界的にみて独特なのでしょうか、ご教授いただけますでしょうか。
また、3型肺炎球菌の小児感染症と成人感染症との関係はいかがなものなのでしょうか。
投稿: 倉敷太郎 | 2007年9月16日 (日) 09時36分
倉敷太郎さま.タイムリーな質問をありがとうございます.
来年の1月の臨床微生物学会で発表する予定ですが,5歳以下では3型の分離率は1.9%,65歳以上では19.2%と大きな差があります.つまり子供ではほとんど分離されないが,大人ではよく分離される,ということです(多少私どもの施設のバイアスがかかっていますが,従来からこのような傾向が報告されています).
「大人の肺炎球菌はしばしば子供からもらっていることが多い」ことを考えるととても不思議な現象ですね.小児の免疫学的問題が関与しているのかもしれません.
日本は,世界的に見て3型肺炎球菌が多く分離される国です.でも,他国でも「3型はペニシリン感受性率が高い」とか「遺伝子学的に同一である」という報告があります.
3型肺炎球菌はなぜここまで頑固に自分のスタイルを貫き通すのか?イメージで考えると「あの分厚いムコイドのせいで外来性の遺伝子を受け渡ししにくいんだろうな」とか考えやすいんですが,詳しい原因は不明です.
ちなみに一般的には「3型肺炎球菌は毒性が高い」といわれています.私のイメージではそうでもありません.
マニアックな話に付き合っていただいてありがとうございます.
投稿: ID conference管理人 | 2007年9月16日 (日) 12時40分
ID conference管理人さまこちらこそ早速のご返事恐縮いたします。
>5歳以下では3型の分離率は1.9%,65歳以上では19.2%と大きな差があります.
統計はとっていませんが、感覚的には当院で経験する頻度も同じくらいと思います。
>小児の免疫学的問題が関与しているのかもしれません.
これからムコイド型肺炎球菌が分離される時、少しこだわって見てみようと思います。
やはり他国でも3型はペニシリン感受性率が高く、遺伝子学的に同一性であるという報告があるのですか。やはりあの分厚いムコイドの鎧から遺伝子の受け渡ししにくいし、また、耐性をもつ必要もなかったのでしょうね、しかし、これで耐性を持ってしまうと別の意味で脅威になりますね。
>3型肺炎球菌は毒性が高い?
そうですよね、私も比較的問題視してはいませんでした、毒性が現れる前に、大抵の場合治癒される患者さんがほとんどのように思っていました。
いいえマニアックとは思っておりません、むしろこういったご研究が、これから色々とユニークな視点を生むものと考えております、本当にありがとうございました。
投稿: 倉敷太郎 | 2007年9月18日 (火) 12時33分
皆様
討論が活発になってきています。肺炎球菌でこのような活発な意見を交わすことができるのは『肺炎球菌の臨床的意義が高い』からでしょう。されど肺炎球菌なのでしょう。
分離率の問題ですが、私も参加しています来年の臨床微生物学会のWGの解析でも同じようなことが出ています。当院では5年間に血液と髄液のみ検出された肺炎球菌29例について検討しましたが、3型の検出事例はなかったようです。6Aや6B型の検出が多く、遺伝子型ではPRSPが多かった解析結果になりました。ワクチン株でない6A型の検出事例が多かったことに危機感を感じました。また、電撃型紫斑病も数例経験していますがが12型が検出されています。12型は米国での劇症型を引き起こすタイプとして知られていますので、輸入型?のような感じと受け取っています。この12型の電撃型については本邦でも報告例があるようです(血清型まで記載されていないケースが多いです)。
WGの中間報告では3がたは成人からの分離頻度が最も高く、小児では6番目です。成人で一部PRSPの検出例があるくらいで殆どがPISPに分類されています。ここで言うPISPはpbpの1a、1b、2xのいずれかに変異を持つもので、3型の場合は殆どpbp2x変異のみになり、PCGのMICを測定すると感受性=”S”になります。つまり表現型ではPSSPになるのでしょう。
私見ですが、3型の菌は耐性を持たないのが多いのは莢膜を持っているのでそんなに耐性化が必要でないことや耐性遺伝子と共存できないからと考えています。
戻りますが、 ID conference管理人さまがおっしゃる通り、この症例ですがADROPスコアが0点になりますので医学的には入院が不要になりますね。ICTの症例検討をしていますと、病棟の有効利用から考えると呼吸器専門の内科医などの教育も必要かなと思う局面も多いです。でも本当?と悩む症例も多いです。
投稿: 師範手前 | 2007年9月18日 (火) 15時26分
ちなみに,3型の90%くらいは erm 遺伝子を持っていて,マクロライドに高度耐性です.まとめると,3型の肺炎球菌の多くは
・pbp2xに変異
・erm遺伝子をもっている
・ペニシリン感受性でマクロライド耐性
という特徴を持っていて,要するにみんな同じ株だ,ということです.
各々の株のpbp遺伝子の解析は,日本ではよく行われていますが,欧米ではほとんど行われていません(かわりにPFGEやMLSTなどが行われています).
例えば日本の 19F 型の肺炎球菌の半分以上は, pbp1a, pbp2b, pbp2xの全てに変異があり,mef遺伝子を持っています.なんでこんなに似通っているのか?
PFGEをするとこの理由がよく分かります.要するに日本の 19F 型の肺炎球菌の半分以上は "Taiwan19F-14"と名付けられた「同じ株」なのです.同じクローンなので,pbp遺伝子やマクロライド耐性遺伝子のプロファイルが同じなのは当たり前のことです(中にはさらに進化を遂げた変異株がたまに見つかりますが).
こう考えると,一つ一つの株のpbp遺伝子やマクロライド耐性遺伝子だけをみて,あーだこーだ言っても,あまり意味がないような気がしてきます.
投稿: ID conference管理人 | 2007年9月19日 (水) 10時20分
ID conference管理人さま。
まさにその通りです。
当院の結果をもう少し詳細に申し上げますが
19Fは3例出ていますが全てpbpの変異(1a,2b,2x)がありました。23Fも同じです。9や15には変異がなく、6Bが最も多かったのですが半分全ての変異が認められていました。マクロライド耐性に関しては19Fは半分mefAを持ちますがermBは持っていません。mefA+ermBの株に関しては23Fのみに認められましたが、無菌材料から検出されるものにはermB単独変異株が多かったように思います。
>一つ一つの株のpbp遺伝子やマクロライド耐性遺伝子だけをみて,あーだこーだ言っても,あまり意味がないような気がしてきます。
そんなことは無いと思います。確かに医学的には問題ないかもしれませんが、こういう疫学調査は今後の日本の状況を考える上で必要です。がんばりましょう。
投稿: 師範手前 | 2007年9月20日 (木) 19時56分
耳鼻咽喉科を開業している者です。いつも大変ためになる記事をありがとうございます。ムコイド型肺炎球菌は、実を言うと我々の領域ではかなり問題で、この菌による急性中耳炎は治療に難渋し、特に成人発症型では重症化するケースが多いというのが一般的な認識です。そこで気になる点ですが、当院でのデータでは、急性中耳炎の鼓膜切開時の鼓室内貯留液からの分離菌で、肺炎球菌が検出された場合、ムコイド型の頻度が現在大体20-30%(年度により差)ぐらいですが、不思議なことに、急性中耳炎の頻度が圧倒的に多い1歳児ではM型が殆ど見られずスムーズ型ばかりなのです。ここ2年半のデータなので十分とは言えないかも知れませんが、80例中、19例にM型が検出されていますが、1歳児が1人もおらず、S型では圧倒的に1歳児(25例)が多いのです。何かお考えがあればご教示下さい。
投稿: Auchi | 2009年8月20日 (木) 10時17分
Auchi さま 返信遅くなりました。最近は非常に忙しく、個人の時間もなくなって来ましたのでブログのコメントレスが遅くなってしまって申し訳ありません。
肺炎球菌の血清型別がご存知の通り成人と小児は違いますし、感染部位でも違います。ムコイド株すなわち血清型3型が殆どだと思いますが、地域によっても検出率が異なることが多いです。この株の特徴はペニシリン耐性が少ない株ですよね。なので治療は比較的スムーズに行くことが多いですが、莢膜の多い分だけ免疫応答から避けて生存しますので、抗菌薬の移行が少ない部位では難渋する例も散見されます。
見せて頂いた例では自家感染だろうと思いますが、患者の多くは保育所などの集団保育をされていないでしょうか?小児間で伝播するケースもあるようです。ただし、家族内の場合もあり、その場合は小児から成人に多い血清型、またはその逆も見られることが多いです。
小児の菌が成人に付き髄膜炎になるケースもありますし、患者背景を問診時にしっかり聞くことで疫学統計を見て考察がスムーズに行く場合もあります。一度調べてください。
投稿: 師範手前 | 2009年8月25日 (火) 22時43分