2023年5月 9日 (火)

感染性心内膜炎(IE)の2023 Duke-ISCVID基準のアップデート

皆様、お久しぶりです。かなり多忙な毎日に忙殺されていてブログの更新がままならない状態でした。

ファンの皆さまには深くお詫び申し上げます。

さて、本題です。

先日のECCMID2023が閉幕しましたが、そこから流れてくる情報の中に貴重な情報がありました。

なんと、感染性心内膜炎(infectous endocarditis:IE)の診断で使用している人が多いと思います、Duke Criteriaが大幅に変更となりました。

原文;https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciad271/7151107

全体の変更点については山本舜悟先生が綺麗にまとめておられるので以下のURLへジャンプして読んでください。

https://note.com/bizarreid/n/n91de00d3e02c

私は微生物検査のところを中心に解説をしていきます。

1)血液培養の重要性について念を押すように記載されている

IEの診断に欠かせないものとして血液培養がある。血液培養をいつ採取するかは主治医が感染症をいつ疑うかによります。

血液培養の2セット採取がしっかり行えており、好気ボトルと嫌気ボトルを1セットとして正しい量の採血されいることが前提になります。

血液培養は検出菌の種類により、2セットまたは3セット陽性になったものかどうかの判断を求めるように変更されています。

2)そもそも発熱の概念について(これは記載がないので余談です)

発熱するの原因となるものは沢山あります。そもそも正しく検温ができているのか?もそうですが、体温計を患者に渡して自己申告によりカルテ記載されていないことを祈るばかりです。感染症を強く疑うのに毎日1回しか検温していないこととかないでしょうか?せめて1日4回以上はしっかりと医療従事者の手によって検温して欲しいです。

発熱の多くは感染症によるものですが、非感染症では腫瘍熱や膠原病に伴う発熱、薬剤アレルギーが起因になる薬剤熱、手術などで体内に漏出した血液が吸収されていく時の吸収熱など色々な理由があります。熱型も大事で、菌血症時は平熱と高熱を交互に繰り返しますが、これは血液中の菌がクリアランス機能により減ったり、増えたりしている様を指します。また解熱剤で発熱はマスキングされることもあり熱の観察は本当に大切です。

1_20230509011301   2_20230509011301

3)検出される微生物を区別しています

検出菌は2つに区分されています。

①”typically” 典型的な検出菌

血液培養は2セット陽性になること。ただし、菌種によっては好気または嫌気の片方しか陽性にならないので検出菌の発育性については微生物検査室に相談してみてください。

ⅰ)Streptococcus

streptococciは肺炎球菌とS. pyogenesを除くstreptococciという表現に置き換わり、viridans group streptococciやStreptococcus bovis groupは名前が消えています。

肺炎球菌やStreptococcus pyogenesは菌血症になってもIEになる機会が非常に少なく、ここは外したのでしょうね。また、記載はありませんが、S. pyogenesはStreptococcus dysgalactiae subsp. equsimilis(SDSE)は同じ意味になりますし、S. agalactiaeとは少し概念が変わっているのだと思います。S. agalactiaeのIEはたまにみますしね。

詳しくはCirculationに記載があるので、下記を参照してください。

https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046723

ⅱ)Staphylococcus

S. aureusは最も注意すべき細菌なのでそのまま記載されていますが、S. lugdunensisが追記されています。S. lugdunensisは骨感染症を起こすことで知名度があがりましたよね。本来はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)なのですが、市中感染でも話題になるので注意が必要です。

ⅲ)Enterococcus

E. faecalisだけがピックアップされています。それ以外のEnterococcusはIEの頻度が少ないので割愛されています。

たしかに、E. faecalisはヘモリジン産生株はIEをよく起こしますし、NOVAスコアをみてもE. faeciumよりIEを起こしやすいことがわかります。

NOVAスコア:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25381321/

以前はフォーカス不明なEnterococcusに限定されていましたが、今回は文言はなくなっています。まあ、フォーカス不明なEnterococcusが出てきた場合はIEはr/oすることは変わらないのでしょうね。

ⅳ)HACEK group bacteria

Haemophilus spp.,A. actinomycetemcomitans,Cardiobacterium hominis,Eikenella corrodens,Kingella kingaeの5菌種の総称です。

口腔内細菌でIEの原因菌で弁損傷が強く、この菌が血液培養で出たらIEはr/oした方が良いと思います。そもそもIE以外の疾患で陽性になる機会が少ないので。

血液培養が好気が陽性になる機会が多いです。嫌気は菌種により異なります。

Dsc_3337 Cardiobacterium hominis お花畑状に見えるのが特徴です。

HACEKの文献はこれがまとまっています。

https://journals.asm.org/doi/10.1128/CMR.14.1.177-207.2001

ⅴ)NVS(Granulicatella,Abiotrophia)

血液培養は嫌気ボトルが中心で発育に時間がかかります。好気はあまり陽性になりません。

HACEKと同様に口腔内細菌で弁損傷が強く、本菌が出た場合はIEはr/oした方が良いです。

Abiotrophianvs3Abiotrophila defectiva 少し長細く染色性が悪いことがあります。

ⅵ)Gemella spp.

同じく口腔内常在菌です。NVSに似てますね。

Gemella2

ⅶ)人工物留置がある場合にIEを考える菌種

今回新しく追加になりました。普段はコンタミネーション?と思われがちな菌種です。

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)、Corynebacterium jeikeiumとC. striatum、S. marscesens、P. aeruginosa、Cutibacterium(Propionibacterium) acnes(アクネ菌)、非結核性抗酸菌(NTM)、Candida spp.が対象になります。

Candidaの場合はバンドルを組んで、IEや眼内炎についてもしっかりとフォローしたいですね。

改めて血液培養陽性時に中心静脈カテーテル(CVやPICC)、人工関節、人工血管などの挿入履歴を確認することが大切ですね。

特にカテーテル関連血流感染症(CRBSI)の診断ではカテーテル血と末梢血の陽性時間の差が大切になりますね。

② ”occasionally”偶に または”rarely’”稀な検出菌

血液培養は3セット陽性になること。ただし、菌種によっては、血液培養で陽性にならない、もしくは好気または嫌気の片方しか陽性にならないので検出菌の発育性については微生物検査室に相談してみてください。

今回はculture negative IEとしてCoxiella burnetii or Bartonella speciesなど培養では発育しない細菌やBrucella,Tropheryma whipplei(ウイップル病),Legionella,fungi(糸状真菌),NVS(Abiotrophia, Granulicatella)などの発育の遅い細菌が対象になっています。

・Q熱:Coxiella burnetiiではphase I IgG antibody titer > 1:800やDNAシークエンスによる検索 血液培養で陽性になる?
・CSD:B. quintana,B. henselaeではEIA IgG titer of > 1:800やDNAシークエンスによる検索 血液培養では28日以上の培養が必要。
・ウイップル病:Tropheryma whippleiのDNAシークエンスによる検索 血液培養で陽性になる?

のように、DNAシークエンスによる菌種同定が注目されています。C. burnetiiについては以前は血液培養陽性という項目がありますが、そもそも陽性になったことは殆ど聞きませんので、DNAの検出は必要なのでしょうね。この論文にも記載がありますが、DNAシークエンスは感度が良く、結果がでるのは早いですが、高額であることや手間がかかるので、問診や身体所見で検査前確率が高い状態まで持っていき実施することをお勧めします。感染症の多くは医療面接と身体所見で80%は診断ができると言われてますので、患者背景を含めて臨床推論をしっかりと行うことが重要です。

日本国内では専門家によりシークエンスをしてくれるところがあるので感染症学会のHPを参考にしてみてください。

https://www.kansensho.or.jp/modules/idmap/idmap.html

このように、医療技術の発展とともにIEの診断基準も大きく変わろうとしています。

PCRがどこの検査室でも行え、MALDI-TOF MSの導入が進むことで、少しでも良質な医療に向けて対応できる微生物検査技師でありたいですね。

Duke-criteria2023

 

 

 

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2022年4月 8日 (金)

グラム染色を使った感染症カンファレンス

新年度になりました。4月から異動に伴い新しい部門や部署に配属となった方々も多いと思います。

そのため、”グラム染色”という素晴らしい微生物検査に新たに関わることとなった方々も多いのではないでしょうか。

良質な医療を提供する上で、抗菌薬適正使用というものがあります。これは、感染症を正しく診断し、それに応じた適切な抗菌薬をできるだけ狭域スペクトルで行うことが重要視されます。広域抗菌薬は投与していて安心感はありますが、長期使用に伴い耐性菌発生リスクを高めることが知られています。耐性菌といってもMRSAのような毎日見かけるものから、メタロβ-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌のような、普段から遭遇しないため認知度の低いものまで沢山あります。AMRリファレンスセンターのHPに分かりやすく掲載していますので一度ご覧ください。
https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-3.html

さて、抗菌薬の選択は原因微生物の種類により使い分けを行うことも重要です。原因微生物の検索には抗原検査と抗体検査、最近では新型コロナウイルス感染症で広く認知された遺伝子検査などがあります。抗原検査の中には、簡易抗原検査(A群溶連菌や、肺炎球菌尿中抗原、インフルエンザ迅速検査など)と塗抹・培養検査があります。簡易抗原検査は簡便なところがメリットですが、標的となった微生物しか検出できないデメリットも存在します。培養検査はmultiplexですが結果が出るのが数日かかり今知りたい情報が直ぐに得られないというもどかしさがあります。培養検査には、ほぼ必ずと言って良いほど塗抹検査が施行されています。塗抹検査の代表的な項目に前述した”グラム染色”があります。

グラム染色のメリットは、材料採取したその場で培養で検出されるであろう微生物が推定できます。それも菌種レベルで細かく確認ができることもあります。例えば尿でグラム陰性桿菌が確認された場合は太めであれば大腸菌をはじめとした腸内細菌、細めであれば緑膿菌をはじめとしたブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌と予想ができます。分離頻度から言うと、腸内細菌では大腸菌やKlebsiellaが大多数を占めるので、太めの陰性桿菌が見えると、それを標的とした治療が開始されます。ESBLなどの耐性菌も分離されますが、自分が働いている職場や職場の周囲によりその分離頻度が異なるので自施設の感受性率をアンチバイオグラムから確認して、抗菌薬の選択に役立てます。ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の場合では、ほとんどが緑膿菌になるので、マイナーな菌種まで幅広く覚える必要は直ぐにはないので、緑膿菌の感受性率を押さえておく必要があります。

3_20220407235901 グラム陰性桿菌で幅が広く、両先端は細くなっていないため腸内細菌を疑う。

Photo_20220407235801グラム陰性桿菌で幅が狭く、両先端が細くなっているため緑膿菌を疑う。

菌が確認できれば、それに応じた微生物に最適な抗菌薬を投与することで抗菌薬の適切な処方ができますが、もし鑑別診断で感染症が下位の鑑別に挙がっている状況で、グラム染色をして微生物が見えない場合は感染症が否定される可能性も示唆されるため、抗菌薬投与を一時見合わせることもできます。まったく何も見えない場合であれば、多くの人が納得するでしょうが、微生物が見えていた場合は「どうして、その菌を治療しないのか?」と感じる人もいるでしょう。自分1人で解釈が困難な場合は、普段からグラム染色を見慣れている人や感染症に造詣が深い医師や医療従事者、微生物検査技師に話を伺うことも1つの手です。当院の感染制御部では、グラム染色をもとに抗菌薬適正使用している部署とともにカンファレンスを開催しています。初期抗菌薬はこれで良かったのか、材料は適切に採取され解釈も正しいものであるのか、培養結果との整合性と今後の治療方針の確認など個別化された感染症治療の適性化がそこに凝縮されています。

例えば、こういう架空の症例があります。

症例;80代の女性

主訴;呼吸困難

既往歴;大腸癌(3年前に手術歴あり、他院フォロー中)、認知症。

現病歴・入院時現症;2〜3日前から痰が絡んでいた。本日、朝ご飯を食べてから呼吸苦を自覚し、そのまま寝ていたが苦しくなり家族が救急車を読んで搬送された。BT 37.0℃、RR 35,BP 146/96,PR 110,SpO2=85%。胸部X線では肺炎と思われる浸潤影は認めないが、気道には茶色の気道分泌物(喀痰?)を認めた。肺炎の評価を行うため、原因微生物の確認も含めてグラム染色で確認することとなった。

弱拡大(100倍):喀痰は多核白血球が多数あり、扁平上皮が少数。喀痰として唾液混入の可能性は低く材料評価は良いものと判断。誤嚥性肺炎の可能性も低いものと判断。

20220208-144055 X 100

強拡大(1,000倍):GPCが少数あり、形態はcluster形成でOozing signもあるためStaphylococcus aureusを推定。yeast like fungiは仮性菌糸もありCandida albicansを推定。

20220208-133006 X1,000

20220208-144700 X1,000

現病歴や上記の所見より、

喀痰は見られるが、少量であること。S. aureusとCandidaは経気道的な肺炎を起こしにくく、胸部陰影からも敗血症性塞栓を思わせる画像所見もないことから、確認された微生物は原因微生物として該当しないことと判断した。その後に撮影した造影CTでも、両側下肺野に誤嚥性肺炎と思われるわずかな浸潤影もあったが、肺炎としての抗菌薬投与は見合わせることとなった。

これは、ほんの1例です。

定期的にこのような、グラム染色所見をもとにカンファレンスを開催して情報共有と目合わせを行うことは抗菌薬適正使用に有意義な活動ですので、どこの病院でも開催されると良いですね。

 

 

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2022年2月26日 (土)

福岡県臨床検査技師会 微生物部門研修会

先日、山口県臨床検査技師会でお話しをする機会を頂きました。

聴講された皆様、お世話して頂いた方々には厚く御礼を申し上げます。

さて、来週3月5日はお隣の福岡県臨床検査技師会でお話しする機会を頂きました。

資料は下記よりダウンロードが可能なように調整をしました。

現在、資料の作成が遅れまして申し訳ありません。

資料は3月3日の下記よりダウンロード可能です。

参加登録された方は、主催者から送付した書類に書いてあるパスワードを入力してダウンロードを開始してください(17MB)。

当日の資料ダウンロードサイト:https://xfs.jp/mUaxDK

Qr20220303182521342

当日のポスター:https://xfs.jp/83AUx4

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2022年2月14日 (月)

山口県臨床検査技師会 臨床微生物部門研修会

2月20日は山口県臨床検査技師会でグラム染色のお話しをさせて頂く機会を頂きました。

研修会に先立って、資料をダウンロードできるようにしました。

諸事情により全てをお見せすることはできませんが、当日は資料片手に講義を聞いて頂ければ幸いです。

資料にはパスワードロックが掛かっていますので、申し込み先から送られてくるパスワードを入れて開封してください。

 

本番用資料(30MB):https://xfs.jp/bhXIQ1


おまけ資料(アトラス)(800KB):https://xfs.jp/Tv6ZEX




また、大変申し訳ありませんが、今回申し込みされていない方はダウンロードをご遠慮ください。

また、資料は個人用として、転載や横流しなどはしないでください。

研修会の内容は、後日ダイジェストとして記事にしたいと思います。

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2022年2月10日 (木)

2月は山口県、3月は福岡県で講演があります

新しい職場に来て、少し時間に余裕ができてきたので、毎日グラム染色のことをする時間が少しできました。

さて、コロナ禍で研究会や研修会が全てweb配信で行われる機会が増えました。私もたまに講演依頼がありますが、webが中心になっています。

なかなか、webだと聴衆の反応が分かりにくいし、質問がさらにしにくくなったかと思いますが、顔を隠してでも良いので日頃の疑問をぶつけてみましょう。

2月20日は山口県臨床検査技師会:適切な微生物検査の実践 (グラム染色道場入門) 

http://www.yamaringi.jp/pg772035.html

3月5日は福岡県臨床検査技師会:グラム染色カーニバル

https://fukuokaamt.or.jp/wp-content/uploads/2022/02/20220305carnival.pdf

よろしくお願いします。

先日こんな質問を頂きました、「実習指導中の学生さんからH. influenzaeは色が少し薄く染まると聞きました。本当ですか。」

A:以前から、Haemophilus属は腸内細菌に比べて色が少し薄いピンク色に見えることが多いので、色が薄いと説明しています。赤本にはそういう表現は記載していませんが、Clinical Microbiology Procedure Handbook(CMPH)では、淡い色に確認されることがあると記載があります。比較できそうな写真がありますので、送信させて頂きますのでご確認ください。

染色手技にもよりますが、やはり腸内細菌より薄いピンクに見えます。

こういう感覚でグラム染色を見ていくと面白いですね。

Photo_20220210230501

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«真菌は何色に染まるのか