感染性心内膜炎(IE)の2023 Duke-ISCVID基準のアップデート
皆様、お久しぶりです。かなり多忙な毎日に忙殺されていてブログの更新がままならない状態でした。
ファンの皆さまには深くお詫び申し上げます。
さて、本題です。
先日のECCMID2023が閉幕しましたが、そこから流れてくる情報の中に貴重な情報がありました。
なんと、感染性心内膜炎(infectous endocarditis:IE)の診断で使用している人が多いと思います、Duke Criteriaが大幅に変更となりました。
原文;https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciad271/7151107
全体の変更点については山本舜悟先生が綺麗にまとめておられるので以下のURLへジャンプして読んでください。
https://note.com/bizarreid/n/n91de00d3e02c
私は微生物検査のところを中心に解説をしていきます。
1)血液培養の重要性について念を押すように記載されている
IEの診断に欠かせないものとして血液培養がある。血液培養をいつ採取するかは主治医が感染症をいつ疑うかによります。
血液培養の2セット採取がしっかり行えており、好気ボトルと嫌気ボトルを1セットとして正しい量の採血されいることが前提になります。
血液培養は検出菌の種類により、2セットまたは3セット陽性になったものかどうかの判断を求めるように変更されています。
2)そもそも発熱の概念について(これは記載がないので余談です)
発熱するの原因となるものは沢山あります。そもそも正しく検温ができているのか?もそうですが、体温計を患者に渡して自己申告によりカルテ記載されていないことを祈るばかりです。感染症を強く疑うのに毎日1回しか検温していないこととかないでしょうか?せめて1日4回以上はしっかりと医療従事者の手によって検温して欲しいです。
発熱の多くは感染症によるものですが、非感染症では腫瘍熱や膠原病に伴う発熱、薬剤アレルギーが起因になる薬剤熱、手術などで体内に漏出した血液が吸収されていく時の吸収熱など色々な理由があります。熱型も大事で、菌血症時は平熱と高熱を交互に繰り返しますが、これは血液中の菌がクリアランス機能により減ったり、増えたりしている様を指します。また解熱剤で発熱はマスキングされることもあり熱の観察は本当に大切です。
3)検出される微生物を区別しています
検出菌は2つに区分されています。
①”typically” 典型的な検出菌
血液培養は2セット陽性になること。ただし、菌種によっては好気または嫌気の片方しか陽性にならないので検出菌の発育性については微生物検査室に相談してみてください。
ⅰ)Streptococcus
streptococciは肺炎球菌とS. pyogenesを除くstreptococciという表現に置き換わり、viridans group streptococciやStreptococcus bovis groupは名前が消えています。
肺炎球菌やStreptococcus pyogenesは菌血症になってもIEになる機会が非常に少なく、ここは外したのでしょうね。また、記載はありませんが、S. pyogenesはStreptococcus dysgalactiae subsp. equsimilis(SDSE)は同じ意味になりますし、S. agalactiaeとは少し概念が変わっているのだと思います。S. agalactiaeのIEはたまにみますしね。
詳しくはCirculationに記載があるので、下記を参照してください。
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046723
ⅱ)Staphylococcus
S. aureusは最も注意すべき細菌なのでそのまま記載されていますが、S. lugdunensisが追記されています。S. lugdunensisは骨感染症を起こすことで知名度があがりましたよね。本来はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)なのですが、市中感染でも話題になるので注意が必要です。
ⅲ)Enterococcus
E. faecalisだけがピックアップされています。それ以外のEnterococcusはIEの頻度が少ないので割愛されています。
たしかに、E. faecalisはヘモリジン産生株はIEをよく起こしますし、NOVAスコアをみてもE. faeciumよりIEを起こしやすいことがわかります。
NOVAスコア:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25381321/
以前はフォーカス不明なEnterococcusに限定されていましたが、今回は文言はなくなっています。まあ、フォーカス不明なEnterococcusが出てきた場合はIEはr/oすることは変わらないのでしょうね。
ⅳ)HACEK group bacteria
Haemophilus spp.,A. actinomycetemcomitans,Cardiobacterium hominis,Eikenella corrodens,Kingella kingaeの5菌種の総称です。
口腔内細菌でIEの原因菌で弁損傷が強く、この菌が血液培養で出たらIEはr/oした方が良いと思います。そもそもIE以外の疾患で陽性になる機会が少ないので。
血液培養が好気が陽性になる機会が多いです。嫌気は菌種により異なります。
Cardiobacterium hominis お花畑状に見えるのが特徴です。
HACEKの文献はこれがまとまっています。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/CMR.14.1.177-207.2001
ⅴ)NVS(Granulicatella,Abiotrophia)
血液培養は嫌気ボトルが中心で発育に時間がかかります。好気はあまり陽性になりません。
HACEKと同様に口腔内細菌で弁損傷が強く、本菌が出た場合はIEはr/oした方が良いです。
Abiotrophila defectiva 少し長細く染色性が悪いことがあります。
ⅵ)Gemella spp.
同じく口腔内常在菌です。NVSに似てますね。
ⅶ)人工物留置がある場合にIEを考える菌種
今回新しく追加になりました。普段はコンタミネーション?と思われがちな菌種です。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)、Corynebacterium jeikeiumとC. striatum、S. marscesens、P. aeruginosa、Cutibacterium(Propionibacterium) acnes(アクネ菌)、非結核性抗酸菌(NTM)、Candida spp.が対象になります。
Candidaの場合はバンドルを組んで、IEや眼内炎についてもしっかりとフォローしたいですね。
改めて血液培養陽性時に中心静脈カテーテル(CVやPICC)、人工関節、人工血管などの挿入履歴を確認することが大切ですね。
特にカテーテル関連血流感染症(CRBSI)の診断ではカテーテル血と末梢血の陽性時間の差が大切になりますね。
② ”occasionally”偶に または”rarely’”稀な検出菌
血液培養は3セット陽性になること。ただし、菌種によっては、血液培養で陽性にならない、もしくは好気または嫌気の片方しか陽性にならないので検出菌の発育性については微生物検査室に相談してみてください。
今回はculture negative IEとしてCoxiella burnetii or Bartonella speciesなど培養では発育しない細菌やBrucella,Tropheryma whipplei(ウイップル病),Legionella,fungi(糸状真菌),NVS(Abiotrophia, Granulicatella)などの発育の遅い細菌が対象になっています。
・Q熱:Coxiella burnetiiではphase I IgG antibody titer > 1:800やDNAシークエンスによる検索 血液培養で陽性になる?
・CSD:B. quintana,B. henselaeではEIA IgG titer of > 1:800やDNAシークエンスによる検索 血液培養では28日以上の培養が必要。
・ウイップル病:Tropheryma whippleiのDNAシークエンスによる検索 血液培養で陽性になる?
のように、DNAシークエンスによる菌種同定が注目されています。C. burnetiiについては以前は血液培養陽性という項目がありますが、そもそも陽性になったことは殆ど聞きませんので、DNAの検出は必要なのでしょうね。この論文にも記載がありますが、DNAシークエンスは感度が良く、結果がでるのは早いですが、高額であることや手間がかかるので、問診や身体所見で検査前確率が高い状態まで持っていき実施することをお勧めします。感染症の多くは医療面接と身体所見で80%は診断ができると言われてますので、患者背景を含めて臨床推論をしっかりと行うことが重要です。
日本国内では専門家によりシークエンスをしてくれるところがあるので感染症学会のHPを参考にしてみてください。
https://www.kansensho.or.jp/modules/idmap/idmap.html
このように、医療技術の発展とともにIEの診断基準も大きく変わろうとしています。
PCRがどこの検査室でも行え、MALDI-TOF MSの導入が進むことで、少しでも良質な医療に向けて対応できる微生物検査技師でありたいですね。
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