2021年10月12日 (火)

新しい生活様式と微生物検査の変化

しばらく、溜まりに溜まった原稿執筆のためにブログの更新をしていませんでした。

先日、COVID-19流行に伴って、薬剤耐性菌がどのように変化したのか?という研究報告結果がでました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34562548/

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その研究内容の中で、肺炎球菌は激減し、MRSAは減少、3世代セフェム耐性の大腸菌とKlebsiellaは増加していたという報告です。COVID-19の流行により、どの施設でも微生物検査の検査数が減っていると思いますがどうですか? 検査数が減ると、それに併せて耐性菌の検出数は減ったが、耐性菌は少し増えています。

ユニバーサルマスクにより、飛沫感染防止が進み肺炎球菌がそれで減少している可能性があり、肺炎球菌の菌血症も減少しています。
また、手洗いの励行とアルコールによる手指衛生が習慣化してきましたが、そうすると接触感染対策の耐性菌が減るはずです。MRSAは皮膚に常在するので、表皮を清潔に保つことで減少したかもしれませんが、大腸菌やKlebsiellaは皮膚より内臓(特に腸管や泌尿器)に常在するために、皮膚を清潔に保持しても大きく減る訳ではないかもしれません。この文献に考察として記載がありますが、Klebsiellaの増加は大腸菌に比べて高いのは、Klebsiellaの方が莢膜を有するので病原性が高いことに起因しているかもしれないとのことです。

同じことが腸管感染症でも影響がでてきているように思います。先日、小児感染症学会で2019年〜2021年の小児患者から分離された、主な細菌やウイルスの検出状況について報告させて頂いた内容ですが、ウイルス性腸炎は、ノロウイルスやロタウイルスによる食中毒も発生数も減少しました。ロタウイルスは2020年にワクチンの定期接種が開始されたタイミングもありますが、COVID-19による生活様式の変化も関与しているのでは無いかと思います。

3_20211012223201 2_20211012223201 IASRのデータを加工し掲載
4_20211012223201 当院の検出状況

細菌性腸炎では、EHECの分離頻度は減っていますが、Salmonellaは減っていないし、Campylobacterはむしろ増加しています。外食が減って食中毒は減少したのですが、EHECは手洗いの励行が進んだことも影響しているのか減少しています。Campylobacterは巣ごもりする機会が増えたのが原因で家庭内での感染が増えたのでしょうか? 皆さんの施設では如何でしょうか。仕事をしていると、CampylobacterはCOVID-19の発生数が減ってくると、外来で検出数が増加するような気がします(気のせい?)。

5_20211012223201当院の検出状況

注)大腸菌が病原性大腸菌血清検査が陽性になったもので、病原因子の確認は十分にできていないため、腸管内の常在している大腸菌も含まれます。

感染症が世界的に大流行した後には、何らかの影響がでています。スペイン風邪の時は、経済の停滞や労働者の確保が難しくなったり、教育や所得、健康にも影響がでていたと報告があります。小学校では、ここ2年プールは無くなり、運動会などのスポーツイベントは減り、授業や宿題はリリモートへと移行しています。学校教育も変化したので学生の状態も今後変化すると思われます。

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COVID-19の流行は我々に何をもたらすのでしょうか。微生物検査の運用も大きく変わろうとしていますし、そもそも感染症の流行状況が変われば検出される菌も変わるのでしょうね。今後の動向に注意が必要です。

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2021年9月22日 (水)

教科書的でないのがグラム染色の探究心を掻き立てる(喀痰から見えた肺炎球菌の例)

最近はFacebookに呟く機会が多かったりします。twitterでも呟きますが文字数制限の関係で途切れ途切れになっててすいません。

今回は読み応えがあるかもしれません(無いかも)。

肺炎球菌は市中肺炎の原因菌として、市中病院のみならず大学病院のような大きな病院でも分離されるcommonな菌です。

肺炎球菌はグラム陽性球菌で楕円形の長軸方向2個連なったレンサ状球菌として確認されます。莢膜を有する細菌としても有名で、グラム染色所見では菌体周囲が白く抜けて見えることが多いのが非常に特徴的です。そのため、教科書や参考書では「グラム陽性の双球菌で、菌体周囲に莢膜を有するので白く抜けて見えることが多い」と書かれることが多いと思います。

しかし、グラム染色を見ていると必ずしも教科書的で無い所見が確認されます。いくつか紹介します。

①長いレンサ状

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肺炎球菌はStreptococcus属なので、レンサ状球菌として観察されても何ら不思議では無い。ただ、双球菌としか見えないのを勝手に理由を考えました。

ア)極性があって2つしか連なることができない。

イ)2個分裂したところで安定し、自己融解を起こし菌が消失してしまい長くならない。

ウ)菌側の大きな事情がある。

世の中もそうですが、生物であれば半端者はどこにでもいる証と思います。

②形が丸い

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丸々としていますね。流石に鏡検していた後輩はコメント欄に「ブドウ球菌」と書いていました。

良く見ると大小不同がありますし、双球菌として見えなくはないですね。これを肺炎球菌と分かれば黒帯かもしれません。

③莢膜が見えない

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貪食像であり莢膜も見えないし、菌は食細胞の作用を受けて肺炎球菌とすら分かりにくい形状になっています。

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別の喀痰です。莢膜があるやつが、6時の方向に1つだけ見えますが、あとのは肺炎球菌?と思えますね。肺炎球菌はたまにこのように集塊を作ることが多いですので、これが肺炎球菌サインの1つです。鼻腔内に保菌している肺炎球菌はこのように見えることが多いです。好中球減少時は鏡検で白血球も見えないことが多く(下)、こういうサインを見逃さずにしたいですね。

ただし、口腔内レンサ球菌との区別が難しいので、Gecklerは4か5の膿性痰で洗浄をしっかりとした痰であることが条件となります。

Photo_20210922213701好中球減少時(WBC<1000)

④莢膜が赤い(別々の喀痰です)

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莢膜が赤く見える肺炎球菌は血液寒天培地上でムコイド形成をする株で、血清型3型や37型が多い。PCG耐性菌は少ない傾向です。

菌体が丸みを帯びているものが多いような気がします。

⑤もはやグラム陰性にしか見えない(別々の喀痰です)


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所謂、自己融解を起こした肺炎球菌です。こうなると培養でも分離ができなくなりグラム染色頼みです。

⑥少なすぎるため確認が困難

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SBT/ABPC投与20時間後。菌数が少なくなり確認がしにくい。

色々と見せましたが経験に勝るものは無いかもしれません。翌日培養結果を見て、再度グラム染色を見直して考えることで覚えていきますので、見終わったグラム染色は粗末にしてはいけませんよ。

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2021年8月31日 (火)

神経疾患と誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎を疑う場合には、嚥下機能が低下する神経疾患が併存していないか考えることが大切です。

神経疾患の随伴症状では、嚥下障害やムセが急速に進行し、次いで歩行障害や脱力、麻痺などが症状として現れます。肺炎を起こしている本人が気づくこともありますが、認知症があったり、主訴が上手く聞き取れない場合は、近くで観察している家族とかの証言がキーワードとなることがあります。

そして、嚥下障害がいつ頃から、どの程度認めるのかタイムラインを整理していくことも必要です。例えば、以下の神経疾患が原因で嚥下障害から誤嚥性肺炎に発展する。

①突然発症した場合:脳卒中やてんかん発作

②急性発症した場合:脳炎や多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症(MG)、ギラン・バレー症候群(GBS)

③慢性の場合:脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ALS、MG

神経疾患の中でパーキンソン病は比較的誤嚥性肺炎に遭遇しやすい病気で、舌や咽頭など嚥下時に使う筋肉が固くなるため誤嚥を起こしやすい状態である。そのため、未だ診断されていないパーキンソン病が誤嚥性肺炎を契機に見つかることがあります。

写真はパーキンソン病が基礎疾患にある患者で発症した誤嚥性肺炎のグラム染色所見です。

Photo_20210831225101莢膜が確認できるGNRあり(S/O Klebsiella)

6_20210831225101線毛上皮も見えます。

多核白血球多数で非常に雑多な細菌が確認されます。「グラム染色所見で誤嚥性肺炎を疑う所見を認めます。」と報告し、胸部X線では両側の気管支肺炎像が確認され誤嚥性肺炎と診断されました。糖尿病が基礎疾患にあるため、莢膜が確認されるグラム陰性桿菌(S/O Klebsiella)が多数確認されています。

本当に誤嚥性肺炎の診断のみならず主たる細菌の種類も素早くわかる喀痰グラム染色は有意義な検査ですね。

 

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2021年8月30日 (月)

化学性肺臓炎(メンデルセン症候群)

先日、子供と「化学性肺臓炎と誤嚥性肺炎」をテーマで、グラム染色所見の報告について話し合う機会がありました。

私:「メンデルセン症候群って普通に使う?」

子供:「あー、化学誤嚥のことやろ。使うこともあるかな。」

私:「メンデルセン症候群と誤嚥性肺炎の区別ってどこでしてるん。」

子供:「誤嚥のエピソードがあって2日以上熱が続く時かな。」

私:「嫌気性菌のカバーってどうしてるん。」

子供:「基本カバーしないけど、閉塞とか慢性誤嚥とか嫌気性菌のリスクが高い場合にはカバーするかな。CDIのリスクも上がるから基本的には嫌気性菌はカバーは要らんのちゃうか。」

私:「でも、世の中の多くは嫌気性菌カバーだ!ということで、SBT/ABPCやTAZ/PIPCが多く選択されているけど、あれってどう思う?。」

と他愛も無い話が続きました。一般的な会話ですが、レベルが高い話かもしれません。

微生物検査技師の多くは”メンデルセン症候群”という名前を聞くことがあまり無いかも知れないので紹介します。

誤嚥が原因で起こす肺炎には「化学性肺臓炎(メンデルセン症候群)」と「誤嚥性肺炎」があります。

・誤嚥性肺炎:嚥下障害や胃の蠕動運動低下が原因となり、口腔内や消化管由来の細菌が関与し肺に急性炎症を起こす病態のことを指します。誤嚥しているところは発見されにくく、発熱、頻脈、咳嗽や肺炎像が見られ高齢者に多い疾患です。

・化学性肺臓炎(メンデルセン症候群):胃の内容物が逆流し肺に落ち込むことが原因となります。呼吸困難感のない乾性咳嗽や頻脈、血痰、泡沫痰が出現することが特徴的な臨床症状です。胃液はpHが低いため化学炎症を起こしますが、半数以上は2日以内に症状が改善するため抗菌薬が不要です。しかし、約25%は2次性の肺炎を起こし(誤嚥性肺炎)、呼吸不全が急速に進行することがあります。

つまり、誤嚥性肺炎では抗菌薬投与を必要としますが、メンデルセン症候群では初期は抗菌薬投与が不要です。誤嚥のエピソードがあるかどうかの確認はあれば良いでしょうが、無くても誤嚥性肺炎の可能性はあり、ムセがない=誤嚥性肺炎ではない というのは乱暴かも知れません。

グラム染色所見のみではその違いを区別することは困難かも知れないので、必ず喀痰グラム染色を見るときはカルテを確認しながら、誤嚥性肺炎を示唆するエピソードが無いかどうかの確認が必要です。

6_20210830222101メンデルセン症候群
2_20210830222201 VAP(TAZ/PIPC投与中)

2_20210830222301誤嚥性肺炎(術後肺炎CEZ投与中)

このように誤嚥性肺炎の診断は難しいと認識が必要ですが、起炎菌はS. aureusやE. coli、Klebsiella、P. aeruginosaといった特別な菌はありません。慢性誤嚥や閉塞が強い場合は嫌気性菌も関与することが多いのが特徴です。

誤嚥性肺炎として治療開始したけど経過が良くない場合は、潜在的に誤嚥性肺炎では無い感染症がある、非感染性の肺疾患が存在する、誤嚥性肺炎が治りにくい肺化膿症や膿胸、閉塞が発生していないかの確認が必要です。特に誤嚥を起こしやすい要素がある患者では、他に熱源となる疾患との鑑別が重要になるので、カルテ上で医師が何を考えているのかとか、感染症であればどういう答えを待っているのとかを読み取ることも必要です。感染症は下位の鑑別診断であるが明らかに感染症を疑う所見があれば直ぐに報告してあげた方が良いでしょうね。

機会があれば自施設でメンデルセン症候群と誤嚥性肺炎の違いについて(研修医などと)話してみてください。

 

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2021年7月20日 (火)

推定菌が外れた時どうする?

グラム染色所見から菌種推定をする場面も多いと思います。菌の色や形などを主観的に見て判断して菌種推定は行います。

それは、教科書に載っている画像や過去の経験とのマッチングであり、形態が似ている場合は外れることもあります。

グラム染色ではあくまでも「菌種推定」であって、同定ではないので一定の割合で外れるかもしれないということを念頭に所見確認を行わないといけません。

先日の兵庫県臨床検査技師会でも出題した下記の症例です。

患者:80代,男性

主訴:排尿時痛、頻尿

既往歴:十二指腸潰瘍、膀胱がん

現病歴: X-2週間:排尿時痛を自覚していた。近医でMINOやLVFXを処方してもらっていた。X日:内服をしているが症状の改善に乏しいため外来受診。

さあ、何菌を推定しますか?難しいですよね。

神様は乗り越えられられない試練は与えない。1つのことを習得しても、また新たな試練がやってきます。GNRの菌種推定なんかはその代表的な試練のように感じます。

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尿でGNRだから腸内細菌かもしれないと思い、推定菌を腸内細菌科として報告しましたが皆さんどうでしょうか?

翌日、残念ながらこんな菌が発育しました。マッコンキー寒天培地に半透明のコロニーでオキシダーゼ陽性です。そう緑膿菌でした。

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も一回見返してみましょう。少し小さくて細いかもしれません。

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尿の緑膿菌と大腸菌です。やはり大腸菌の方が少し大きくて太くないでしょうか。

間違えた時は検証です。グラム染色所見が培養結果と一致しない時は以下のカテゴリーのどれに該当するか考えます。今回はカテゴリー2になります。

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塗抹と培養の不一致にあたるので、標本作成時の問題か判読方法に問題があるかになります。

標本作成時の問題については、十分に乾燥できていない標本、染色方法が悪い、染色液の劣化などが原因になります。判読方法の問題では、力量不足や菌種推定を系統別に考えていないなど教育不足が原因となります。新人は間違えることは多いですが、その後に間違った本人が萎縮しないような周囲の働きかけが必要でしょう。グラム染色の限界領域に達してしまったのだから。

ただ、患者背景や他の検査結果を紐解いていけば緑膿菌へ辿り着いたかもしれません。

・亜硝酸塩還元試験;陰性(偽陰性になる要因も含めて考える)→亜硝酸塩還元能が弱い。

・抗菌薬が多用された後のため耐性菌のキャリアになりやすい。

・過去にガンが既往歴にあり、緑膿菌キャリアとなるリスクあり。

 

結局は、間違った理由についてゆっくり考察すること、先輩と一緒に鏡検を繰り返すなど技術の伝承が大切です。

誰しも最初はヒヨッコです。頑張って立派なニワトリに育ててあげましょう。

 

 

 

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