2017年5月19日 (金)

これは重症肺炎か? その1

先月の更新日を見ると4/18。もう月刊グラム染色道場と化しています。

更新が遅くなり申し訳ありません。FB版は結構まめに更新していますので、そちらも宜しくお願いします。

本日は少し症例を交えてディスカッションをしたいので症例提示します(架空症例なのですいません)。

さて、事例です。

患者:80代、男性。
主訴:鼻水、咳嗽、痰
既往歴:糖尿病(治療中)、高血圧
現病歴:1週間前に近医で感冒と言われAZMの処方を受けた。2日間経っても症状の改善が無く、他院を再受診し、経口セフェム内服。その後2日間経過しても改善が無く当院受診。
身体所見:体温37.5℃、心拍数100回/分、血圧150/100mmHg、呼吸数21回/分、SpO2(ルームエアー)95%。左背部下肺でcoarse crackleあり。胸部Xpにて左下肺野にすりガラス影あり。
臨床検査:WBC 9500、Plt 16.2万、CRP 6.8mg/dl、AST 32、ALT 36、BUN 15、Cre 1.00、Glu 256。

喀痰グラム染色を実施したところ下記の画像が得られた。

Photo 喀痰 ☓1000

さあ、どうでしょう。
喀痰を見るとハッとします。一応主治医に電話連絡をしました。

これは余計なお世話でしょうか?また、的確な結果報告でしょうか?

少し考えてください。

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2017年4月18日 (火)

そうです、ただ見るだけでは無いんです

臨床検査技師養成校(指定校)の病院実習担当を毎年しております。臨床検査技師になるためには病院実習で単位の取得が必要で、医学科のように学校自前で病院を確保してない学校も多いこともあり、色々な学校から学生がやってきます。

学生の特色も様々で、

・都市部の国公立大は半分以上大学院に進むので、病院検査には殆ど興味を持たない学生が来ます。母校は1/4しか病院に行きません(とほほ)。活躍する範囲が拡がるのは良いことなんですがね。

・郊外の国公立大や私立大は病院検査に興味を持つ学生が多いです。

・短期大学や専門学校は病院検査に興味を持つ学生が多いです。
当院には幸い、微生物検査について学びたい学生が来るので、グラム染色のことや最新の薬剤耐性菌検査について教える機会が多いです。

学生のレポートを見ていると、グラム染色の重要性について書いていることがあります
・学校では菌を染めて見ることしか習わないが、染色像や形態を詰めて鏡検すると菌種推定ができて面白い。

・抗生剤の選択を希望する医師に重要な情報を、培養結果が出る前に伝えることができて、抗生剤の適正使用に繋げている。

・培養で検出される菌を予測して、培地の組み合わせを考えることで検査の合理化が図れる。

などなど。

確かに、学校では各検査内容についての教育が主体で、検査結果の組み立てについては殆どありません。ましてや、感染症治療に重要な抗生剤との繋ぎ合わせについては殆ど無く、自分の検査がどこでどのように使われているのか考える時間があまりないと思います。私も学生時代にはローマ字を書いて、細かい難しい名前の試験の何が大切か良く分からないなと思っていました。

先日のレポートでは、「グラム染色はただ単に菌を形態付けて報告するだけでは無く、治療薬の選択まで応用するために、菌を細かく分類して報告することに意義付けがある。検査結果についての臨床的意義付けをしっかり行い、医療に役に立つ検査結果の報告に努めたい。(要約)」と書いていました。良いこと書きますね。

そうです、ただ単に見るだけではないのです。

・菌種が推定できれば情報を伝える。

・材料が不適切なものであれば伝え、可能であれば再採取して貰う。

・抗生剤を分類して、起炎菌の場合は感受性率を参考に抗生剤についての情報も伝える。

グラム陽性球菌(1+)は肺炎球菌なのか?、腸球菌なのか?黄色ブドウ球菌なのか?これは診断を及び抗生剤の選択時には重要です。肺炎球菌はβラクタマーゼを出さないので阻害剤配合は不要ですし、腸球菌ならセフェムは耐性である、黄色ブドウ球菌であればMRSAかもしれない、などなど。

Photo 是非、推定して報告して欲しい喀痰の肺炎球菌(大葉性肺炎)

3 複数菌が見えるのも重要な情報です(肺膿瘍)

23 予期せぬ菌の場合は非常に有用です(肺ノカルジア症)

今年の医師国家試験でも肺炎球菌性肺炎時の抗生剤の選択と、溶連菌菌血症時のde-escalationについて出題があり、グラム染色も幅が広がっています。

Photo_2
Photo_3
普段、何気なくしていることですが、学生にとっては大変刺激的な内容なのでしょう。
基本を忘れず、また応用例についても加えながら楽しく実習を続けさせたいと思います。
教員の方々も学生教育は非常に大切で、大変だと思いますが、1人でも良い臨床検査技師を世の中に送り出したいですね。

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2017年4月 7日 (金)

【ご案内】第24回日本臨床微生物学会教育セミナーの開催について

勉強会の開催案内ばかりですいません。

今年の8月に神戸で教育セミナーを開催します。先日、学会ホームページにも掲載し、募集を開始しました。まだ先の話のようですが、予算取りなどあると思いますので早めに紹介します。

日程:平成29年8月19日(土曜日)午前9時~8月20日(日曜日)午後1時
場所:神戸市立医療センター中央市民病院 講堂
担当:笠原 敬(奈良県立医科大学感染症センター)、山本 剛(神戸市立西神戸医療センター臨床検査技術部)
テーマ:臨床現場で期待される微生物検査室の構築

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プログラム

8月19日(土曜日)1日目

午前(9時~11時30分)
 講義1:感染症医から見た微生物検査室のあり方
  講師 奈良県立医科大学感染症センター 笠原  敬
 講義2:同定感受性結果を待たずに検査結果を有効に活用するためのノウハウを学ぶ
  講師
  (1)塗抹検査結果をどう活かすのか?
   西神戸医療センター臨床検査技術部 山本  剛
  (2)簡易検査で報告できる同定結果
   関西医療大学保健医療学部 大瀧 博文
  (3)感受性検査結果を予測できる簡易検査の活用
   神戸大学医学部附属病院検査部 中村 竜也

午後(13時~17時30分)
 講義3:耐性菌サーベイランスを現場に活かす
  講師 大阪国際がんセンター感染症センター 河村 一郎
 講義4:微生物検査と抗菌薬サーベイランス
  講師 京都薬科大学 臨床薬剤疫学分野 村木 優一
 講義5:本音で語る 微生物検査室ディレクターの仕事
    ~微生物検査技師の人材育成と効果~
  講師
  (1)大学病院の立場から
   順天堂大学病院医学部附属病院順天堂医院臨床検査部 三澤 成毅
  (2)市中病院の立場から
   亀田総合病院臨床検査部 大塚 喜人
  (3)検査センターの立場から
   株式会社エスアールエル 島川 宏一

ランチョンセミナー(仮題)微生物と免疫
  講師;奈良県立医科大学免疫学講座教授 伊藤 利洋

8月20日(日曜日)2日目

午前(9時~12時)
 講義6: 感染制御における微生物検査技師の役割
  講師 金沢医科大学臨床感染症学 飯沼 由嗣

 演習:ケーススタディ方式によるグループディスカッション
  プレゼンター
  (1)兵庫県立尼崎総合医療センター感染症内科/ER総合内科 松尾 裕央
  (2)兵庫県立こども病院感染症科 笠井 正志

講義の順番については入れ替わる場合があります。日程等は後日ホームページでお知らせします。

参加費:5,000円
交流会費:4,000円
募集人数:100名(先着順受付)
参加資格:当会会員であること
申し込み方法
E-mailまたはFAX・往復はがきに、以下の事項を明記し、下記事務局までお申し込みください。(1)第24回日本臨床微生物学会教育セミナー参加希望、(2)交流会の参加希望、(3)所属、(4)氏名(フリガナ)、(5)会員番号、(6)連絡先住所、(7)電話番号、(8)FAX番号、(9)メールアドレス、なお、往復はがきで申込の際は返信用はがきに宛名・宛先を忘れずにご記入ください。

締め切り:平成29年7月14日(金曜日)必着
申込先
〒141-0031 東京都品川区西五反田1-26-2 五反田サンハイツ1209
日本臨床微生物学会事務局 E-mail:jscm@qk9.so-net.ne.jp
TEL:03-5437-1480 FAX:03-5437-1488

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神戸の夜を堪能して頂けるような意見交換会も考えています。

皆様宜しくお願いします。

Photo

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2017年3月25日 (土)

たまに受ける質問の中で 腸球菌のβ溶血のこと

講演とかする機会があり、渡航地でたまにこういう質問を受けます。
 
「血液培養のグラム染色所見でグラム陽性連鎖状球菌。遠心すると完全(β)溶血しているので溶連菌と言ったら腸球菌が出てきて外してしまいました。」
Photo血液培養からのE. faecalis(短連鎖で横長)
20170325_131502血液培養液を遠心すると完全(β)溶血しています。
確かに完全溶血しているため、溶血と連鎖球菌を繋げると溶連菌と思います。
自分自身は経験しておりますので、あまり動揺しませんが、腸球菌のうち特にEnterococcus faecalisの一部はβ-ヘモリジンがあり、完全溶血するものがあり、そういう株は病原性が高いことが知られています。血液培養よりそういう株が出た場合はまずは感染性心内膜炎を疑うことにしています。
大学教育では腸球菌は不完全(αもしくはα’)溶血と習い、ルチンでも培地上に灰白色のα溶血したものを多く見るので、そこに気づかないことがありそうです。
失敗しないためにもまずは菌1つ1つの形態を見て菌種が何か考える習慣をつけると間違わないようになります。
Gas3血液培養からのS. pyogenes(菌は1つ1つは丸い)
また、血液培養からEnterococcusが出ていますし、感染性心内膜炎を疑う場合はアミノグリコシド高度耐性試験は治療方針を決定する上で必須です。必ずしましょう。

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2017年3月 1日 (水)

喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像

既に月刊誌のようになっています。更新が大変遅くなり申し訳ありません。

さて、喀痰グラム染色を斬るシリーズの第二弾で、今回は肺膿瘍とグラム染色の話をします。

肺膿瘍も肺炎の診断同様に喀痰培養を行うことが診断には必要になります。
ただし、肺炎と肺膿瘍の違いについて理解しながらグラム染色所見を見ていく必要があるのですが、そんなこと教科書に載っていないし、学校や卒後教育でも教えてくれません。

そういった規格外の説明を今回させて頂きますので、「それはちゃうやろ」という方はどんどん意見をください。

【病気の説明】
①肺炎:本来は肺実質(肺胞)の炎症ですが、小葉間や気管支周囲の結合組織が炎症を起こしている状態を指します。

②肺膿瘍:肺実質が炎症で破壊され膿瘍形成を起こしている状態。多くが空洞形成を起こし中心部に膿が溜った状態である。

③膿胸:肺実質以外(主に胸腔内)で膿瘍形成を起こしている状態。

①~③とも呼吸器症状を呈するため喀痰が診断のために必要な検査になるが、②や③は嫌気性菌が多く絡むために嫌気培養を行う必要がある。

【肺膿瘍の成因】
肺膿瘍の成因はいくつかある。

①肺炎が長期化したり、壊死を伴う微生物(黄色ブドウ球菌など)による感染することで起こる。

②慢性の誤嚥性肺炎、気管支拡張症があり壊死を伴う微生物がある場合や異物や気道分泌物による閉塞が起こる場合、肺がんなど悪性腫瘍に伴う閉塞が起こる場合(閉塞性肺炎)。

③肺嚢胞や肺がん、肺抗酸菌症に続発する病巣への重感染の場合。

④消化管や口腔などに原病巣が存在し、そこから血行播種し、肺に膿瘍形成を起こす場合。

Klebsiella、S. aureusのように嫌気性菌で無くても、壊死を起こし感染する場合は単一菌で成立するが、肺膿瘍は口腔内細菌が関与した複数菌感染が多くなる、
嫌気性菌が繁殖する場合は、肺は通常酸素を交換する臓器のため酸素も多い臓器であるが、壊死や膿瘍形成により酸素需要が悪くなる場合は嫌気性菌が数的優位になったり、②については閉塞によりドレナージ機能が低下するために、菌が繁殖しやすい条件が整い膿瘍化が促進する。そのため通常の肺炎に比べて重症化し、難治性のことがある。

つまり、肺膿瘍の成因によって原因微生物も異なるのでグラム染色所見で確認する菌種も異なる。

例1)Klebsiellaの肝膿瘍後に肺膿瘍を起こすと喀痰グラム染色ではKlebsiellaが多く見える
3 喀痰グラム染色のKlebsiella pneumoniae

例2)誤嚥性肺炎に続発した肺膿瘍の場合は喀痰グラム染色所見では多菌種確認されることが多い
3_2 喀痰グラム染色の多菌種貪食(嫌気性菌含む)

例3)咽頭炎に続いて起こる肺膿瘍にはFusobacteriumがあり、喀痰グラム染色ではFusobacteriumが確認される

4 喀痰グラム染色のFusobacterium

つまり、喀痰が診断のために検査に出てくるが、喀痰は直接感染部位に行き採取していないし、出口は一つなので、どういう病態が起こっているのか情報が無ければ、喀痰グラム染色所見から推測するしかない。

【肺膿瘍の病理】
肺膿瘍内には好中球とマクロファージが混在し、フィブリンと炎症性変化を起こした周囲組織が混在する。特に好中球は新旧のものが存在し、核が明瞭なも(上記の例3)のから不明瞭がもの(上記の例1)まで混在するものがある。膿瘍が多くなると壊死物質や滲出液が増大し、空洞形成がある場合は内部に鏡面構造(ニボー)が確認できる。

【肺膿瘍のグラム染色所見】
肺炎と肺膿瘍のグラム染色像で区別できるか?という疑問がある。
肺膿瘍は肺炎より重篤な病態であるため、胸部画像で判断できない場合でも喀痰グラム染色像で区別が出来れば、それはそれとして良いに違いない。

こういうのは肺膿瘍の可能性があるので当院では肺膿瘍疑うとコメントすることある。

①フィブリン物質が多く見える(背景は赤みの強い像である)
②嫌気性菌(特にGPCならS. anginosus groupを想起させる小さい不染性菌、GNRならFusobacteriumを想起させる紡錘状の染色性の悪い桿菌)が多数あり、貪食像もある。
③複数菌の貪食が多く確認される。
④扁平上皮が殆ど見当たらない。

②③はand/or条件である。

2 ②の条件(S. anginosus group)

Photo ③の条件(複数菌の貪食あり)

最終的には肺膿瘍の成因や画像で疾病の分類をすることが前提であるが、肺の異常陰影の原因が肺膿瘍を疑うのであれば付加価値の高い情報であると思う。


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