2018年6月 8日 (金)

Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophilia

先日、十二指腸潰瘍穿孔術後の遺残膿瘍のグラム染色を見ていると下記のようなスメアに遭遇しました。

2 膿瘍(1000倍)

細長くて多く散在しているグラム陰性桿菌と大きく太めのグラム陰性球桿菌とグラム陽性球菌。術前からCMZの投与が開始され、今回は発熱の熱源検索のため提出です。スメアを見たところこのような所見があり報告をしました。

上部消化管の遺残膿瘍のため、細めの陰性桿菌はPrevotellaやPorphyromonas、太めのグラム陰性球桿菌はAcinetobacterを推定しました。妥当性を得るためにカルテ情報を見たところ、遺残膿瘍には2週間もドレーンが留置されています。PrevotellaやPorphyromonasを想像して嫌気培養をしてNo growth。しかし、BTB乳糖加寒天培地には多くのグラム陰性桿菌がは2種類確認されました。陽性球菌と思ったのはAcinetobacterでした。

Acinetobacterはたまに陽性に染まることがある菌のため、鑑別に上げるときには注意が必要です。

結局同定の結果、Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophiliaの2菌種。なるほどという結果でした。

A_baumanii A. baumanii(少し黄色い)

S_maltophilia 緑色が濃い(血液寒天で黄色くなる)

ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌ですが、BTB乳糖加寒天培地上では少し形相が違います。

グラム染色所見で推定菌を外したのですが、カルテ情報を良く読んでみると「なるほどね」と思い、繰り返し標本を見ていました。
ところで、A, baumaniiとS. maltophiliaは違う菌ですが、共通していることもあり、内容は以下です。

・自然耐性があり一部の抗菌薬は効果が無いこと
・人工物に関連した感染症が多く、長期留置している患者から分離されやすいこと。
・ICUといった抗菌薬の選択圧の高い場所に入院している患者に多く分離されること。
・悪性腫瘍や免疫不全など、日和見感染を容易に起こす患者が多い。

などなど。

Clinical Microbiology Review 2012年 Stenotrophomonas maltophilia: an Emerging Global Opportunistic Pathogen

Clinical Infectious Diseases 2006; 42:692–9 The Epidemiology and Control of Acinetobacter baumannii in Health Care Facilities

薬剤耐性で言えば、S. maltophiliaはカルバペネムやCAZを含めたβ-ラクタム薬は内因性耐性で全て効果が期待できません。切り札のカルバペネムでさえだめなんだから、培養結果が本当に重要です。A. baumaniiは耐性度は菌株ごとに違いがあるのですが、3世代セフェムのうちCTXやCTRXといったものは自然耐性です。

耐性菌であるため感染すると治療が難渋化しますが、人工物に関連した感染症も多いので、デバイス管理をしっかりとし、不必要なデバイスは抜去することが大切です。

検査室に必要なスキルとして・・・

AcinetobacterとS. maltophiliaはデバイス関連感染に多いので、提出された背景や理由についてしっかりと把握すること、検出されたら耐性菌のことも想定して、今使っている抗生剤について調べ、変更する抗生剤について処方提案を行う。

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2018年5月16日 (水)

がん患者の微生物検査とは

患者情報をどう微生物検査に活かすのか?という命題は昔から言われていますが、あまり具体的な話はありません。理由の一つとして検体種別で分類し検査内容を決めている、分離された菌はどれを取るか決めているなど検査側に変化がないからである。

近年のがん治療は、肺がんを例に取ると「切らずに治す」というスタイルが主流になりつつあります。がん患者には感染症がつきものですが、がん患者だからといって特別な菌ばかりではありません。
治療する上で、細胞性免疫が下がる病態であれば、結核菌やノカルジア、リステリア菌が分離されやすくなり、液性免疫が下がる病態であれば肺炎球菌が分離されやすくなります。がん患者は、治療によるバリア破綻が増えることもあり、コモンな菌も侵入しやすい状況があります。つまり、ノカルジアやリステリア菌だけでなく、肺炎球菌や大腸菌、クレブシエラなども分離する機会が増えます。
そうすると抗生剤を投与する機会が増えるので、耐性菌が出現しやすい環境ができます。耐性菌といってもESBLやCREといった獲得耐性だけでなく、腸球菌やエンテロバクターなどの自然耐性を持つ菌が増えます。
写真は腸球菌ですが、腸球菌はもともとセフェム耐性ですが、ペニシリンが第一選択になると参考書には書かれています。セフェムが効かなくて、ペニシリンが効くのは細胞壁の構成がStreptococcusと異なるからです。
また、ペニシリンが効くのは、腸球菌の中でも分離頻度が一番高いE. faecalisのことであり、2番めに高いE. faeciumはペニシリン耐性のことが多いですため、腸球菌と言ってしまうと、「あれ、腸球菌なのにペニシリン耐性じゃん」とい結果が待っています。
2
がんでENBDの閉塞を繰り返す患者の胆汁。

E. faeciumはE. faecalisより少し丸みのある短連鎖が特徴です。
これが微生物検査のアウトプットをどのように考えるかです。
インプットでがん患者の情報を得る、がん患者がどのような菌がでてきやすい。
そのためにベストの結果をだせるように微生物検査は頑張る。そういう微生物検査にしたいと思います。
来週の大臨技ではそのような話をしたいと思いますので宜しくお願いします。

http://www.osaka-amt.or.jp/cgi-bin/sche/sche35.cgi?cm=1

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2018年5月15日 (火)

【ご案内】第30回臨床微生物迅速診断研究会総会開催のお知らせ

グラム染色とググったらトップに出てきた、本ブログですが今や2ページ目になってしまいました。管理人の私は4月に異動となり別の病院で働き始めました。

いや、異動すると3ヶ月は落ち着かないよと言われますが、周囲の人は変わり、物品を購入したり、あらゆる申請など様式も異なるので、今までのようにいきませんね。
とは言え、グラム染色のお話は続けていきますので宜しくお願いします。
さて、6月に第30回臨床微生物迅速診断研究会総会が天理医療技術大学の小松先生が総会長で、奈良県の天理市で開催されます。
今回は感染症の診断や診断検査とその向こう側に拘った内容になっています。私もグラム染色のお話をしますので宜しくお願いします。
第 30 回臨床微生物迅速診断研究会総会開催のお知らせ
テーマ「迅速診断を再考する」
第 30 回「臨床微生物迅速診断研究会」総会を下記の予定で開催致しますので、ご案内申し上げます。
会 期:2018 年 6 月 30 日(土)9:00〜17:30
会 場:天理医療大学(〒632-0018 奈良県天理市別所町 80-1)
【会場へのアクセス方法】天理総合駅(JR・近鉄)より徒歩 15 分(約 1km)
総会長:小松 方(天理医療大学 医療学部 臨床検査学科)
参加費:3,000 円(意見交換会 3,000 円)
内 容:
特別講演 「AST 活動に貢献する迅速診断とは」
金光敬二 先生(福島県立医科大学 感染制御学講座)
招請講演 「感染症診療における微生物検査の活用〜臨床医から検査室への要望〜」
笠原 敬 先生(奈良県立医科大学 感染症センター)
教育講演 「第一回 AMR 対策普及啓発活動表彰:グラム染色と感染症診療の活用」
前田雅子 先生(まえだ耳鼻咽喉科クリニック)
ワークショップ「臨床微生物学的検査におけるインプット・アウトプット工程を再考する」
1.塗抹検査:山本 剛 先生(神戸市立医療センター中央市民病院 臨床検査技術部)
2.培養同定検査:口広智一 先生(公立那賀病院 臨床検査科)
3.薬剤感受性検査:中村彰宏 (天理医療大学 医療学部 臨床検査学科)
4.遺伝子検査:木村圭吾 先生(大阪大学医学部附属病院 臨床検査部)
ランチョンセミナー「臨床微生物学検査の随想 忘れてはいけないもの〜人、絆、心〜」
山中喜代治 先生(エスアールエル学術顧問/前・大手前病院)
総会長講演「迅速診断を再考する」
小松 方 (天理医療大学 医療学部 臨床検査学科)
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2018年3月23日 (金)

培地物語(血液寒天培地 後編)  溶血反応

しばらく培地の話が続きます。

前回は 培地物語(血液寒天培地 前編)  血液は何でも良いのか?について書きました。http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/post-5443.html

血液寒天培地 私の後編は血液寒天培地の拘りです。
【そもそも、何で血液寒天培地ができたのか?】
寒天培地はロベルト・コッホが発案した(と言われる)培地ですが、最初はジャガイモ培地( Löwenstein–Jensen medium )で実施していたようですが、さすがに発育は今より悪かったと思います。

血液寒天培地の溶血性を調べたのはBrownがかなり研究(1919年)していています。かなりのボリュームで読むことができませんが興味があれば読んでください。
引用文献を見ていると食品から分離される細菌や咽頭炎から分離される菌を中心でS. anginosuやS. pyogenes、Staphylococcusの溶血性の研究が多いようです。今もそうですが、血液寒天培地に期待されているのは溶血性だったようです。さらに、血液寒天培地の歴史を調べていると結核菌培地として検討した結果が多く出てきます。L-J培地と血液寒天培地との比較では血液寒天培地の方が早く生えましたという論文がいくつか出てきます。
1J Bacterial.1953,Oct.66,448-452.

血液寒天培地に結核菌が生えるのか?と思われますが普通に生えてきます。感染性も考えたら危ないし、今は液体培地もあるのでやらないと思いますが生えます。

Photo_8血液寒天培地に生える結核菌

【溶血へのこだわり】
溶血性が見れるのが血液寒天培地に課せられた最大のミッションです。溶血と言っても緑色になるα溶血、コロニー周囲が抜けて見えるβ溶血がありますが、β溶血が血液寒天培地に求められる条件と思います。β溶血でも溶血性が強いS. aureusやS. pyogenes、S. dysgalactiae subsp. equilimilis(SDSE)から、S. agalactiaeやL. monocytogenesなどのような溶血が弱いもの、S. anginosusのようなβ溶血するがコロニーが小さいものまであります。

皆さんはどの溶血性を重視して血液寒天を選びますか?

Photo_9 α溶血の代表格。肺炎球菌。

Ggsmrsa_2 β溶血の代表格。S. aureus(大きい方)とSDSE(小さい方)。

Gbs 溶連菌でも弱いβ溶血のS. agalactiae

【溶血性と酸素】
我々は通常大気の条件で溶血性を見ますが、ストレプトリジン(厳密にはストレプトリジンO)は酸素条件で溶血性が失われるので、本来の溶血性を確認するためには嫌気条件で確認をします。

しかし、嫌気条件になれば生えるものも生えないので、検査室で炭酸ガス濃度をコントロールすることで溶血性を確認しやすくしています。昔はロウソク瓶培養をしていたわけですが、恐らく炭酸ガス濃度は10%程度になっていたかと思います。
炭酸ガス濃度は低くて5%は必要ですが、孵卵器のドアは開け締めが多いので、当院は7%濃度で対応しています。

【CAMP試験】

昔、ビリーザブートキャンプというのがありましたが、皆さんはしましたか?
かなりのカロリーを消費する運動だと思います。
さて、CAMPはβリジンという毒素が作用する際に、cAMPを産生する菌であれば溶血性が増強する相乗作用を確認するための検査です。
培養検査をしているとたまにCAMPが見られることがあり感動します。

Gbss_aureus_camp 培地上に発育したGBSとS. aureus。CAMPテスト陽性になっている。

次回は寒天物語(寒天培地の発明と内助の功 前編)です。

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2018年3月16日 (金)

培地物語(血液寒天培地 前編)  血液は何でも良いのか?

個人的に培地に拘りを持ちながら仕事をしています。

・培地には寒天が含まれますが、その辺のお店で売っている寒天とは一味も二味も違います。
・血液寒天にはヒツジ血液を使うことが多いですが、六甲山牧場のヒツジから採取された血液では菌の発育は良くありません。
・グラム陰性桿菌の分離培地ですが、関西はマッコンキー寒天培地、関東はBTB乳糖加寒天培地の流通が多いと言われます。
余談ですが、BTB白糖培地というものがあるので、BTB培地もしくはBTB寒天培地というのは厳密には誤りで、ドリガルスキー変法とか加えるのが良いです。

E_aerogenes 関西に多いマッコンキー寒天培地(E. aerogenes)
E_cloacae 関東に多いBTB乳糖加寒天培地(ドリガルスキー変法培地)(E. aerogenes)
要するに寒天培地は、患者にベストなものを使用してこその寒天培地であり、価格も大切ですが成分や製造方法に加えて、寒天や血液など基礎培地の組成が大切です。
例えば、上述しましたが血液寒天の血液にはヒツジの血液を多く用います。寒天培地用の血液にはヒツジの他にはウマやウサギを使いますが、ウサギは少量しか採取できないこと、心臓から直接血液採取を行い培地にすることなど手間が掛かります。ウマは飼育代が高いので培地も高いのでしょうね。


2

有名なものに、Haemophilusの発育性がありますが、Haemophilusは栄養要求も厳しい細菌で、一般的にはヒツジ血液寒天には生えません。ヒツジは生えませんが、ウマやウサギの血液には発育します。そのため、ヒツジ血液寒天を使うっている施設では、Haemophilusの検出目的に、血液を加温して変色させたチョコレート寒天培地を用いることになります。茶色なのは加温により溶血しヘモグロビンが変色するためで、溶血によりNADやヘミンといった産物が培地中に含まれるようになるためHaemophilusは発育します。チョコレートのような色ですが、カカオやチョコレートが入っているものではありません。

20170819_220259 去年の研修会で作ったチョコレートで作った培地。S. aureusっぽいです。

Haemophilusと同じく、Nutritionally variant streptococci(NVS)も通常血液寒天培地に生えないので、確認用にS.aureusを植えて、周囲に発育する様を確認します。周囲に生えるので衛星現象と言います。Haemophilusでも同様の現象が見られます。
2 NVSは真ん中にS. aureusを塗ると周囲に微小コロニーが発育します。

チョコレート寒天培地はHaemphilus以外では使わないのか?と思われるでしょうが、Neisseria gonorrhoaeやNeisseria meningitisはチョコレート寒天培地がキーになるので、材料ごとに使う培地を検査室で分けています。通常、泌尿器材料には用いないところも多いので、oral sexに起因するHaemophilusによる尿道炎や精巣上体炎の検出目的で尿を出しますが、目的菌を伝えないと永久に菌の検出はできなくなります。
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血液寒天培地とチョコレート寒天培地上の髄膜炎菌のコロニー。莢膜産生するのでキレイなムコイド様(光沢あり)になりますが、両者は微妙に違います。
同定が難しい菌種(質量分析装置でも間違えます)であり、結果を急ぐ菌になるので是非コロニーを覚えてください。
さて、ヒツジ血液を用いる理由は安くて大量に採取できるからですが、日本で使用しているヒツジ血液寒天培地の多くは、オーストラリアやニュージーランドで血液寒天培地専用の牧場で飼われたヒツジから採取され輸入してきます。日本にもヒツジがいると思いますが、六甲山牧場牧場のような栄養要求が高い食餌をしているヒツジの場合は血液中のコレステロール値が高いため発育が悪くなり、微生物検査には向きません。
専用の牧場で飼われたヒツジであるがこそ、安定した血液が供給されるわけです。そのため食餌の影響を大きく受けるので、日本では冬に輸入する血液は発育性が良く、夏に輸入する血液は発育性が落ちることがあります。南半球は日本と逆の気候なので、日本が冬でも向こうは夏になるので、牧草の状態も良く元気な血液が多く輸入されています。枯れ草を多く食べている日本が夏のヒツジ血液は少し元気が無いようです。

血液の質が少し落ちた場合は、培地の製法をコントロールして発育性が落ちないようにメーカーでは対応してくれています。ユーザーの皆様が不自由が無いようにメーカーで製品管理をしてくれているので、冷蔵輸送されますが1枚1枚温かみを感じて欲しいと思います。
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Photo B社の拘り抜いた主な血液寒天培地

血液寒天培地の基礎培地にペプトンを使いますが、コストの安いトリプトソイ(マメ科のペプトン)なのか、本来のペプトンであるブレインハートインフュージョン(ウシ心臓浸出液由来のペプトン)で発育性やコロニーの色なども大きく違います。ミューラーヒントン血液培地はブレインハートインフュージョンが基礎培地になりますが、たまに間違ってミューラーヒントン血液寒天培地に塗ってしまうと翌日のコロニーは大きく違うことになっています。

そのため、血液寒天培地はメーカー間差があり、発育しないで良い菌が発育するようになっていたり、逆に発育できなかったりするので、適当には決めてはいけません。何を目的にして、どの培地にするのかは微生物検査技師の手腕に関わってきます。
次回は寒天培地がどうしてできたかの話をします。

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