2020年7月10日 (金)

ATS/IDSAのNTMガイドライン2020年

皆様、ご無沙汰しております。

2007年以来13年ぶりにATS/IDSA NTMの診断治療のガイドラインが改訂されました。ネット上から資料はダウンロードできます。

https://academic.oup.com/cid/article/doi/10.1093/cid/ciaa241/5867961 

ちなみに、旧版(2007)はここからダウンロードできます。

https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.200604-571ST

ちなみに日本のガイドラインは早々と2020年度版が出ています。

https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524249794/

検査関連のことですが前回との違いは、大まかには以下の点です。

  1. 検出された菌種、材料(採取部位)によって起炎菌かどうかの判断が求められるので、今まで以上に同定結果が重要になっています。呼吸器検体のうち、喀痰では kansasiiのような病原性の高い菌種では1回分離で診断に繋がりますが、病原性が低い菌種、例えばMACの場合は2回以上の培養陽性、M. gordonaeのような検出が稀な菌種は数ヶ月に渡り複数回培養陽性の確認となります(培養が出なくても同一ヒストリーであれば塗抹陽性の回数も考慮されるようです)。
  2. ただし、気管支洗浄液から1回でも分離された場合は起炎菌と判断する。過去に喀痰や気管支洗浄液から分離された既往があり、肺生検で確認された場合も起炎菌と判断します(大事なのは分離された=起炎菌では無く、真の起炎菌かどうかをしっかりと検討して治療が必要かを判断することと書かれています)。
  3. 培養は液体培養+固形培養が基本(これは前回と変わらず)ですが、培養温度の記載があります。目的菌によって温度環境を変えて培養が求められており、遅発育菌の場合は36±1℃、迅速発育菌の場合は28±1℃で行い、 xenopi(ゼノピー)では42℃を追加することになっています(M. haemophilumM. genavenseは記載がなくなっている)
  4. NALC-NaOHでNaOHの終濃度が1%を超えないようにと記載があります。1%をより高いと死滅する抗酸菌が存在するからです。また、前回の酸処理の記載は無くなりました。
  5. 抗酸菌が検出された場合は結核菌群との鑑別は早くすること(シークエンスなど核酸同定を利用)。
  6. 同定はいくつかの領域を識別(16S rRNA, hsp65, rpoB, and the 16S–23S)で行うことが必要です。ただし、一般細菌で利用される16S-rRNAの場合は同定精度が低いため、例えば、 abscessus-M. chelonae groupではhsp65rpoBITSの領域を調べて亜種の同定まで行うこと(M. abscessus subsp. abscessusなど)。
  7. 前回はHPLCによる同定が必要でしたが、MALDI-TOF MSの記載が登場しています。ただし、同定までが早くなり同定可能菌種は増えたけど同定精度が悪く今後期待されると記載あります。同定できない場合は遺伝子検査を利用を検討すべきですが、肺疾患に限り同定が必要な状況まで凍結保存をしておくことが進められています。
  8. 前回は塗抹検査もそうですが、培養も菌量の記載や発育指示の温度が細かく記載されていたのですが、今回は言及されていない(それより分離が何回されるかとそういう菌が出てきたのかが大事)。
  9. 薬剤感受性はMICを中心とした表現系から、MICと薬剤耐性に関与している遺伝子の証明へと移行しています。
  10. MACはCAM+EB+RFPがキードラッグになっており、マクロライドに関連したものでは23S rRNA (rrl)領域、追加でアミカシンの感受性が必要になりMIC64μg/ml以上の場合には16S-rRNA (rrs)領域の遺伝子変異の確認が必要になっています。
  11. kansasiiはRFPがキードラッグなのは前回と同じ。特にMICが2μg/ml以上は要注意です。マクロライドについてもMIC32μg/ml以上の場合に注意が必要です。
  12. abscessusはマクロライドやアミカシンに加えて、リネゾリドやアミカシン+マクロライド併用効果について感受性を確認することと記載があります。マクロライドについてはerm(41)遺伝子や23S RNA (rrl)の変異確認が必要になります。
  13. CLSIのドキュメントも2003年から2011年へと参考となる出版物が変わっています。

写真は小川培地に発育した抗酸菌のコロニーです。MALDI-TOF使わなくても大まかにわかります。

M. absessus subsp. abscessus 4〜5日程度でコロニーがガサガサしたのが発育します。 

M-abcessus 

M. avium コロコロとした光沢のあるコロニーです。2週間以上にならないとコロニーがわかりません。

M-avium 

 

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2020年6月19日 (金)

メトロニダゾールは全ての嫌気性菌に効くという解釈は間違えである

毎日コロナのお話しで持ちきりと思いますので、ここらでグラム染色のお話しをします。

先日、TLでメトロニダゾール(MNZ)のお話しが上がっていました。掲載されていた論文は2010年のCIDになります。

Metronidazole Is Still the Drug of Choice for Treatment of Anaerobic Infections

https://academic.oup.com/cid/article/50/Supplement_1/S16/365006

MNZはニトロイミダゾール系の抗菌薬、抗寄生虫薬です。開発はなんと50年以上前になりフラジールの愛称で処方されてきました。日本では1979年に抗寄生虫薬として使用が始まり、2014年には嫌気性菌にも使用できるようになりました。最初は経口薬のみでしたが、日本でも注射用剤としてアネメトロが使用できるようになりました。

細菌での作用機序は細胞壁を通過してDNAに傷を付けることで殺菌的に作用します。脂溶性の抗菌薬であり膿汁中への移行はβ-ラクタム系薬に比べて高く、嫌気性菌が関与する膿瘍で効果が高くなる(膿瘍治療の基本はデブリードです)。C. difficileにも奏功し、適用拡大までVCM散しか使用できなかった偽膜性腸炎の治療にも使う機会が増えてきました。

バイオアベイアビリティーも経口と注射でさほど変わりませんが、飲めない患者にとって注射薬はかなりありがたいはなしです。

排泄も良い抗菌薬なので、腎機能低下の患者でも用量調整が不要なことがあります。ただし、高度腎機能低下の場合は体内にMNZの蓄積がありMNZ脳症になると報告があります。

かなり嫌気性菌一押しですが、嫌気性菌の全てで効果があるわけではありません。

添付文書にも記載がありますが嫌気性菌のうちグラム陰性桿菌やClostridium属(Clostridioides含む)といった有芽胞菌については効果がありますが、

・嫌気性グラム陰性桿菌:Βacteroides、Fusobacterium、Prevotella、Porphyomonasなど

・嫌気性有芽胞グラム陽性桿菌:Clostridium、 Clostridioidesなど

 

無芽胞グラム陽性桿菌や嫌気性グラム陽性球菌、MNZ耐性菌には効果がありません。

・無芽胞グラム陽性桿菌:Eubacterium、Actinomyces、Propionibacteriumなど

・嫌気性グラム陽性球菌:Peptostreptococcus、Previmonas、Finegordiaなど

・耐性菌:B. fragilis、C. difficileなど

 

嫌気性菌感染症については単一感染が少なく、溶存酸素濃度が高い臓器(消化管>肺)では発生しにくく、血液培養ではあまり見かけません。

診療科では耳鼻科や消化器外科を中心に多く見られます。肺膿瘍の原因としても知られてますが敗血症性肺塞栓として確認されることがあります。

感染臓器や病態から嫌気性菌を疑うのでMNZを初期治療に使うことは間違っていませんが、グラム染色を確認することでその適正化は図れます。こういうところでもグラム染色所見の臨床的意義は高くなります。

そのため、こういう所見がある場合は検査室では推定菌種を付けて返すと良いかもしれません。どれだけ使用予定の抗菌薬に効果が低い要素があるかを考える良い機会になります。

こういう初歩的と思われる内容は研修医は知っていないことが多く、臨床研修の間に覚えておきたい知識の一つと思います。

CdC. difficile(偽膜性腸炎)

白く抜けて見える陽性桿菌がClostridiumを推定させます(MNZ感受性)

200_20200619001601Βacteroides fragilis(膵膿瘍)

腸内細菌とは区別しにくいです。少し染色性が悪いのが特徴として見えることある(MNZ感受性)。

EbvFusobacterium nucleatum(頸部膿瘍)

先端が尖り、紡錘形の菌体が特徴です(MNZ感受性)。

6003Propionibacterium

分岐した棍棒状の陽性桿菌(MNZは効果なし)

3_20200619001501Actinomyces

分岐が多い陽性桿菌(MNZは効果なし)

5_20200619001401Fusobacteriumと嫌気性GPC多数の複数菌

Fusobacteriumは効果が期待できますが、GPCは効果なしです。

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2020年5月10日 (日)

石鹸による手洗いはコロナウイルスに有効か?

(一部内容を変えて掲載し直しました)2020年5月10日 13時更新

新型コロナウイルス感染症の予防対策に手洗いが有効とされています。手洗いは皮膚に付いた病原体を洗い流すし衛生を保つ意味がありますが、体液汚染が少ない場合はアルコール消毒で代用が可能です。アルコールは使用時に体熱の熱損傷が多く、なんとなく「手洗いよりアルコールの方が効きそう」と思いがちですが、新型コロナウイルスのみならず手洗いが感染防止対策の基本です。

 

一般的なコロナウイルスの構造を示しましたが、ウイルスの遺伝情報となるN蛋白を脂質で取り囲み、蛋白が分布しています。エンベローブは石鹸で表面構造を破壊し、簡単に破壊されウイルスは失活します。石鹸で取り囲まれたウイルスの残骸は水洗で排出されるため非常に衛生的ですが、新型コロナウイルスはS蛋白が他のコロナウイルスに比べて長く感染性が維持され石鹸の効果が少し劣ると言う報告もあります。大量にウイルスを含んでいる場合は手洗い後にアルコール消毒をすることで感染性はよりなくなります。

 

Colonavirus_structure

阪大微研究所のHPより拝借(http://www.biken.osaka-u.ac.jp/news_topics/detail/1077

1_20200510105401

https://www.nytimes.com/2020/03/13/health/soap-coronavirus-handwashing-germs.htmlを改変

手洗いはシャッとするのではなく、20〜30秒間しっかりと揉み洗いをして洗い残しが無いようにすることも大切です。

また、手洗い後はペーパータオルで拭き取り、しっかりと乾かしましょう。布タオルやハンカチで拭き取ることも良いですが他人との共用は避けることが必要です。5月4日に公表された「新しい生活様式」でも手洗いがの大切さが示されました。病院のみならず家庭でも手洗いの重要性を再認識する良い機会です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

 

 

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2020年4月25日 (土)

新型コロナウイルスのPCR検査に思うこと

新型コロナウイルス感染症が拡大し、緊急事態宣言が発令しております。自宅待機にも慣れてきたかと思いますが、感染拡大とともにPCR検査の稼働回数が増えてます。

PCR、PCRといっても結核菌PCRと同じようなイメージをしている医療従事者が多いと思いますが、新型コロナウイルスの標的となる核酸はRNAなので、取り扱いは結核菌DNAとは少し異なります。また、従来のPCRのようにキット化されて、保険点数もついていますが、体外診断用試薬の適用がないものが多く流通しています。そのため、内部精度管理を含めての検証をしっかり行うのがキモです。

また、キット化されても陽性がピタッと出るものもあれば、うーん、うーんと悩む症例も多い。コンタミ排除を完璧にしているが、どう考えてもコンタミは否定できないという結果判定も遭遇します。陰性例もRNAがしっかりと抽出できているのか疑心暗鬼になります。

通常のPCRよりかなり手の込んだ検査であることは理解して欲しい。

こういうことはニュースや新聞、雑誌などに取り上げられる機会も少なく、また取り上げられたとしても難しい内容になるので、到底一般市民の眼には止まらない内容です。TVでもその辺をしっかりとコメントしている医療関係者もいますが、状況を理解せず「PCRを全例に」と話している人も目にします。それは正解かもしれないが、有機的に考えると無駄も多いと思う。

今回のPCRの目的は診断・治療もさることながら、二次感染を防ぐためにもウイルスがいるかいないかを判断する重要な役割をしています。結果はゼロか100%かのどちらかを求められおり、操作の不慣れからくる偽陽性・偽陰性は避けなければならない。そのため、検査手順がしっかりと見直しできるスタッフとスタッフのスキルトレーニングが重要です。

また、「スタッフ不在のため今日はできない」、「人が少ないので今日は結果が遅くなる」など日常では許容できるものでも、新型コロナウイルス感染症は猶予をくれません。機器や試薬は買ってもらえるが、臨床検査技師はそうそう増やしてもらえません。恐らく、どの施設でもPCR戦略グループを作り、マンパワー確保のため一定期間はスタッフの日当直は免除されたり、1人のスタッフが倒れた場合でも体制が維持できるように検査室全体で後押しすることが必要です。

言葉は悪いですが、これはCOVID-19と臨床検査技師の戦争です。現場の方のみならず管理者の方はしっかりと後方射撃を行うことが大切です。

全国のPCRに関わっている皆様の力なしで、現在の診療は維持できません。皆さん頑張りましょうね!!!

しかし、この動画は面白い。

https://togetter.com/li/1481255

 

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2020年4月16日 (木)

COVID-19にサージカルマスクで立ち向かえるのか?

新型コロナウイルス感染症の予防対策にサージカルマスクは必須ですという情報があります。

サージカルマスクはこんなに薄いのに新型コロナウイルスを防げるのか?と疑問を抱いていないでしょうか。

先日Nature medicine https://www.nature.com/articles/s41591-020-0843-2.pdf )にコロナウイルス に対してサージカルマスクがどれだけ有効であったかという報告がありました。この報告によるとコロナウイルス感染症患者にサージカルマスクを装着すると殆どのウイルスが抑制されたことが書かれています。

Photo_20200416230601

患者にサージカルマスクをさせることで優位にウイルスの飛散を抑制することが証明されています。患者のみならず、自ら感染者となった場合にサージカルマスクをしっかりとしていると感染が広がらないことが証明されます。

また、布マスクでは新型コロナウイルスは抑制されるのか?という疑問も持っているかもしれません。ある報告では、呼吸器感染症、ウイルス感染症、インフルエンザ様感染症の3つにおいてサージカルマスクが布マスクに比べて優位にウイルスを抑制したと報告(マスクの取り扱いには問題ありますが・・)されてます。

https://www.researchgate.net/publication/275360639_A_cluster_randomised_trial_of_cloth_masks_compared_with_medical_masks_in_healthcare_workers

マスクはしないよりした方がウイルスの拡散を抑制しますが、鼻が出たり、口が出たりしないようにしっかりと着用しなければその効果は出ませんのでしっかりとすることが必要です。

空気感染対策が必要な場面ではN95マスクの着用をすることは当たり前なので使い分けも大事ですね。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-e756ce.html

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