2018年11月 6日 (火)

看護師がAMRにどう関係しているのか その1;手指衛生

久々の更新です。

先日、地元で看護師向けに耐性菌と抗菌薬適正使用について話しする機会を頂きました。
抗菌薬適正使用は今年から加算が取れるなど診療報酬も含めて医療についての大きな目標の一つになっています。院内外の活動やセミナー、学会などは薬剤師や医師がこのASPについて話題に取り上げることが多いようです。
AMR、耐性菌の管理については、元々看護師の接触対策や微生物検査技師の検出方法が中心の話題であったのですが、最近では発生させないために抗菌薬の処方コントロールがポイントとなってきたし、現場において、耐性菌=消毒薬しか話題のなかった薬剤師にとっては、これほど重要なポジションなので薬剤師のないAMRは語れなくなってきたことも影響していると思います。昔から関わりを持っている方々も多かったのですが、マイノリティーなのか話題に上がることが少なかったように思います。
1 組織作りが大事です
さて、先日お話しした内容ですが、ポイントは何個かあります。
1.手指衛生を徹底することで耐性菌を広げない
2.適切な感染予防策の実施で耐性菌を広げない
3.適切な材料採取で無駄な抗菌薬を減らす
4.ワクチンプログラムを組んで感染症を減らす
5.バイタルサインをきっちりと記録する(診断や治療経過に必要)
6.デバイス管理やサーベイランスを行う(医療関連感染を減らす)
別に、処方がどうのこうの、投与量がどうのこうのは次の段階だと思います。
何回か分けて話していこうと思います。
その1:手指衛生の推進
永遠のテーマだと思う手洗いですが、耐性菌を少なくする活動の中には接触感染予防があります。耐性菌をいち早く見つけ、それを適切に管理をするより、耐性菌がわかる前にも予防を行うことが重要です。
6 やっぱり5つのタイミングが大事
ある実験で細菌の伝播がどこまで拡がるのか実験をしたことがあります。手に大腸菌を塗って、1人に握手をする、その握手された人はまた別の人に握手をする、それを繰り返し行っていくとどうなるのか?という実験です。写真にもありますが、8人目まででもべったりと菌が付着していきます。
2 驚異の伝播力(大腸菌)
まあ、こんなのは実験レベルだからと思うでしょうが、機材や器具に付着した細菌であればどうでしょうか?細菌が目に見えるほど大きければ”ばっちい”とわかりますが、相手は目に見えないので、適当にしていると直ぐに伝播してしまいます。
4 環境中に細菌は結構生きる。アシネトバクターなんかは引っ付いたら中々除去できないので、出てほしくないですね。
 手指衛生を行うことで減ってきたのがMRSAや多剤耐性緑膿菌の発生です。接触予防策を強化することで院内の感染対策は上達していきます。それに応じて他の感染対策も向上し耐性菌が減ることが分かっています。感染管理加算ができてからあMRSAの数は減ってきています。これは、耐性菌の保菌圧をコントロールすることに成功しているためで、今更ながらMRSAが減らない、多剤耐性緑膿菌が良く出るという医療機関は感染対策のシステムがどこかおかしいというメッセージが含まれます。自分の施設は大丈夫かどうかもう一度見直しませんか。
5 保菌圧の高いB病院の方がアウトブレイクのリスクが高いです。
手洗いは永遠のテーマだと言いますが、まさにその通りです。ある研究ですが、トイレをした後にどのくらい手洗いをするか?という結果があります。なんと、15%も手を洗わないという衝撃の結果でした。なんせ、う○こをした後でも5%も手を洗わないのは、運が落ちるからなのでしょうか?
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さらに衝撃なのが、男性が洋式トイレで小便をする時に狙う点によって飛沫の数が異なるというものです。男性諸君、小便は座ってしますか?立ってしますか?小便は手前もしくは両端を狙うのがオススメです。
8手前なんか、技術が高すぎて無理だと思う人は、両側に逸らしましょう。
そもそも、手洗いが習慣付いている人は85%しか無いんだから、手洗いの遵守率って85%以上上がらないんじゃ無いかと思います。遵守率は高いのが良いですが、一番大事なのが高い水準を維持すること、さらに欲を言えば遵守率をどう上げるか、下がればどう是正するかです。そういう意味で手洗いの遵守率を調べるのは良いことですし、アルコール擦式消毒薬の使用量を調べるのは良いと思います。この結果をモニタリングして、耐性菌の発生率が減ったかどうか比較することは簡単な成果目標になると思います。
我々はこういう相手(患者や医療従事者)に、手洗い手洗いと言っているわけで、何回も何回も言うことは本当に大切なんだと思います。
ESBL産生菌は外来で多く分離されます。何の既往歴もない子供からも出るくらいだし、感染対策をいくらしても減らない細菌の制御は抗菌薬の使用量を減らす以外ないんでしょうね。
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2018年9月13日 (木)

E, faecalisとE. faeciumを分ける理由

本当にブログを書く時間がなく、Googleも2ページ目に登場しなくなりました。

もはや、グラム染色での知名度は低くなりつつあります。
それが原因ではありませんが、FacebookやTwitterに続き、ようやくInstagramも始めました。あまり更新していませんが、#グラム染色とつけていますので画像をみてください。
ところで、先日からセミナーや研究会が続きAMR対策について話しする機会を頂いています。その中でグラム染色所見でEnterococcus faecalisとEnterococcus faeciumを区別する意味について話しをしました。
なぜ、この2つの菌を分けないといけないのか?また、グラム染色でそこまで言い切れるのか?など、色々と意見があると思いますが個人的にはこう考えています。
1. EnterococcusというとE. faecalisを連想させる
多くの医師はEnterococcusと聞くと「ペニリシンが効くやつでしょう?」という返事が返ってきます。間違いではないのですが、このEnterococcusとはE. faecalisのことを指していることに気づきます。過去には E. faecalisでペニシリナーゼを出すものがあるということでしたが、近年ではその報告もありませんので、E. faecalisはペニシリンを選択することになります。
Photo
血液寒天培地で見ると全然コロニー形状が違います。
2.Enterococcusでペニシリン耐性株がいるのは想定外かも
E. faeciumの多くはペニシリン耐性です。E. faeciumとは細胞壁の構造が少し違うんでしょう。 E. faeciumの存在を知っている医師は泌尿器科や感染症内科、一部の総合内科で、感染症診療に興味が強い医師です。つまり、E. faeciumということで「VCMしかだめなんだ」と想起することができるかなのですが、殆どできないと思います。 。なので検査室は、E. faeciumが出たらEnterococcusや腸球菌と言わずに、E. faeciumとはっきり言うことが重要です。
1no_2
3. この2つの病原性は違うのか?
血液培養陽性時にはE. faecalisの方がE. faeciumより感染性心内膜炎が多く見つかるという報告があります。E. faecalisの中にはヘモリジンを産生するものがおり、弁膜症と起こしやすいということも言われています。この2つの菌は感受性が異なるので適切な治療開始が遅れることがまず病原性を高めている要素であるので、この2つは早いうちに分ける方が良いと思います。
・ NOVAスコアを用いたEnterococcusによる菌血症時の心エコー実施のためのスクリーニング:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25381321
・感染性心内膜炎におけるE. faecalisの病原性:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1198743X14637125
4.結局グラム染色所見でこの2つを分けれるのか?
Enterococcusは短い連鎖で、2〜多くても10個の連鎖しかありません。4〜8連鎖中心であればEnterococcusの可能性があります。
そもそも、EnterococcusとS. pneuoniaeをグラム染色所見で区別できるか?ということに戻るが、この2つは感染臓器が少し異なるので、横隔膜より上がS. pneumoniae、下がEnterococcusと判断できます。Enterococcusは腹腔内感染や尿路感染症が多いのでどの臓器、どの材料かどうかが大きな判断材料となります。
さて、本題のE. faecalisとE. faeciumの違いですが、
・E. faecalisは楕円形で横に4〜8個連鎖した菌
・E. faeciumは円形で横に4〜8個連鎖した菌
Faecalisfaecium_2 2つ並べてみた
Faecalis 胆汁のE. faecalis
Faecalis_2 尿のE. faecalis
Faecium 胆汁のE. faecium
Faecium2 胆汁のE. faecium
Faecalisfaecium_3 なんとレアなE. faecalisとE. faeciumが同時に見える
上記のような理由もあり、E. faecalisとE. faeciumは早く分けるメリットは大きいと思います。
最後に、ご存知の通りEnterococcusはペニシリンと同じβ-ラクタムでもセフェムが自然耐性なのは言うまでもありませんね。
胆汁からS. pneumoniaが出たのを見たことがありますが、初めて遭遇した症例は見事に外れました。こう言うイレギュラー症例はグラム染色の限界かもしれませんね。ちなみに、こう言う症例は消化器がんでENBDチューブ留置例に多いので、気をつけながら見ると良いでしょう。
Spfaecalis

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2018年8月23日 (木)

もう直ぐ書籍化します

もはや月刊化した本ブログです。

グラム染色でワード検索した時に、Google検索でも1位を総なめしていたのですが、最近では2ページ目にも出てきません。
もっと話題を提供したいのですが、ISOを取ることもありゆっくり書く時間がありません。
申し訳ありません。
さて、2007年から始まった本ブログですが、とうとう書籍化します。
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まずは呼吸器感染症に焦点をおいたものですが、ゲラを見た限りではかなり面白い内容になっています。コンセプトとしては気軽にグラム染色のことを読めることで、満員電車でも、お昼休憩の短時間でも、寝る前にも読めるようにと考えました。また、スクラブや白衣のポケットにも入るサイズ。ボリューム感は無いですが、現場重視で作成しています。
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恐らく、次回の臨床微生物学会には間に合うかと思います。発売した時には手にとってみてください。また、気に入れば購入もして欲しいです。
下記は目次です。
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そのうち、泌尿器材料や体腔液、膿汁など出す予定です。続けて宜しくお願いします。

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2018年7月27日 (金)

12月の医療法改定と微生物検査の対応について

本年12月13日に医療法等の⼀部を改正する法律の⼀部の施⾏に伴う関係省令の整備に関する省令の改定があります。

既にISO(15189や9001)の認定を受けている施設、または直近で認定を受ける施設では既に手順書の作成がされているので大きな問題は無いと思いますが、精度管理を曖昧にしてきた施設では何のことがわからないので、少し解説します。ただし、私も全て把握しておりませので詳しくはインターネットなどで確認してください。

今回は医療法の改定と臨床検査技師に関わる規則の細則が改定になります。

検査に関わる精度(品質)管理、精度(品質)保証、品質のマネージメントがしっかり行えているか確認できるものが必要となり、医療機関が自ら行う検体検査の精度の確保に関する基準として以下の内容が義務付けられます。そうです、義務なんです。

・精度の確保に係る責任者の配置

・精度の確保に係る各種標準作業書・日誌等の作成

・遺伝子関連・染色体検査の精度の確保に係る責任者の配置

生化学や免疫に関しては自動機器が中心であり、標準化が随分前から進んできたのですが、微生物については遅れています。

ISO認定施設では品質管理について、責任の所在を明らかにし、手順書の作成や日誌の整備を行いますが、今回はISOとっていようがなかろうが医療機関であれば作成しなければなりません。「そんなの大変やん。」、「定時で帰らないとダメなので私は関係ないわ」や「作っていることにしておいたらいいやん」など通用しません。今の業務に上乗せして手順書の整備を行わないといけないので、早めに作成に取り掛からないと年末は大変なことになります。

微生物検査は外注だから・・・というのもダメで、院内でインフルエンザ検査など簡易検査を実施していると、この手順書を作成しないといけません。

今回は以下の条件が必須条件になります。

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1.精度の確保に係る責任者の配置(医師または臨床検査技師)

2.精度の確保に係る各種標準作業書・⽇誌等の作成

1)各種標準作業書の整備

検査機器保守管理標準作業書(検査に⽤いる検査機器等の保守管理を徹底するために作成される標準作業書)、

及び測定標準作業書(検査・測定担当者の検査手技の画一化を図り、測定者間の較差をなくすために作成される標準作業書)

2)各種作業日誌・台帳の整備

試薬管理台帳、及び検査機器保守管理作業⽇誌、測定作業日誌、統計学的精度管理台帳、外部精度管理台帳

また、以下の条件は努力目標(できれば行うべき事項であり、今後必須条件に変わる可能性あり)となります。

3)検体検査の精度の確保のために努めるべき事項

内部精度管理の実施、及び外部精度管理調査の受検、適切な研修の実施

今まで臨床検査については、品質・精度管理の基準について法律上の規定がなかったのですが、第193回通常国会において以下の法律が成立しています。その施行が本年12月であり、手順書がない医療機関においては作成が必要になります。

・品質・精度管理に係る基準を定めるための根拠規定を新設(医療法の改定)

・品質・精度管理に係る基準を省令で定める旨を明確化する(医療法・臨床検査技師等に関する法律の改正)

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標準作業書は他院のをコピペすることは原則禁止なので、一から作っていかないいけません。たぶん、ISOの施設に聞いてもくれないと思います。

部門の作業書なので部門に関係する職員のみ周知して、確認した内容が必要でしょうかね。

今回は努力目標となった精度管理の実施状況ですが、特定機能病院(恐らく大学病院)と一般病院(恐らく国立病院機構や自治体病院)は報告書によると以下の通り

1)特定機能病院

・培養同定(実施率68%)  内部精度管理70%、外部精度管理90%

・感受性(実施率67%)  内部制度管理67%、外部精度管理95%

・病原体核酸検査(実施率28%)  内部精度管理87%、外部精度管理92%

2)一般病院

・培養同定(実施率34%)  内部精度管理66%、外部精度管理98%

・感受性(実施率34%)  内部制度管理62%、外部精度管理90%

・病原体核酸検査(実施率13%)  内部精度管理88%、外部精度管理93%

大学病院のほとんどがISO取得しているので実施率が高く、一般病院のほとんどがISOを取得していないので実施率が低いことがわかります。

参考文献

検体検査の精度管理等に関する検討会について(省令改正)

https://www.city.otaru.lg.jp/jigyo/hokenjo/shomuiyaku/tsuchisyu30.data/kentaikennsa.pdf

検体検査の精度管理等に関する検討会とりまとめ

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000200534.pdf

臨床検査における品質・精度の確保に関する研究

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000182681.pdf

本当にこれからどうなるんでしょうね。

グラム染色に関することは

・染色液の品質保証を行うために定期的(まあ、毎日でしょうね)に基準株を染める

・菌数測定(技能評価なので年1回程度ですかね)を行い陽性率を算出する

・目合わせを行う(血液培養であれば複数人で確認する、フォトサーベイで年1回目合わせする)

などでしょうか。

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2018年6月 8日 (金)

Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophilia

先日、十二指腸潰瘍穿孔術後の遺残膿瘍のグラム染色を見ていると下記のようなスメアに遭遇しました。

2 膿瘍(1000倍)

細長くて多く散在しているグラム陰性桿菌と大きく太めのグラム陰性球桿菌とグラム陽性球菌。術前からCMZの投与が開始され、今回は発熱の熱源検索のため提出です。スメアを見たところこのような所見があり報告をしました。

上部消化管の遺残膿瘍のため、細めの陰性桿菌はPrevotellaやPorphyromonas、太めのグラム陰性球桿菌はAcinetobacterを推定しました。妥当性を得るためにカルテ情報を見たところ、遺残膿瘍には2週間もドレーンが留置されています。PrevotellaやPorphyromonasを想像して嫌気培養をしてNo growth。しかし、BTB乳糖加寒天培地には多くのグラム陰性桿菌がは2種類確認されました。陽性球菌と思ったのはAcinetobacterでした。

Acinetobacterはたまに陽性に染まることがある菌のため、鑑別に上げるときには注意が必要です。

結局同定の結果、Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophiliaの2菌種。なるほどという結果でした。

A_baumanii A. baumanii(少し黄色い)

S_maltophilia 緑色が濃い(血液寒天で黄色くなる)

ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌ですが、BTB乳糖加寒天培地上では少し形相が違います。

グラム染色所見で推定菌を外したのですが、カルテ情報を良く読んでみると「なるほどね」と思い、繰り返し標本を見ていました。
ところで、A, baumaniiとS. maltophiliaは違う菌ですが、共通していることもあり、内容は以下です。

・自然耐性があり一部の抗菌薬は効果が無いこと
・人工物に関連した感染症が多く、長期留置している患者から分離されやすいこと。
・ICUといった抗菌薬の選択圧の高い場所に入院している患者に多く分離されること。
・悪性腫瘍や免疫不全など、日和見感染を容易に起こす患者が多い。

などなど。

Clinical Microbiology Review 2012年 Stenotrophomonas maltophilia: an Emerging Global Opportunistic Pathogen

Clinical Infectious Diseases 2006; 42:692–9 The Epidemiology and Control of Acinetobacter baumannii in Health Care Facilities

薬剤耐性で言えば、S. maltophiliaはカルバペネムやCAZを含めたβ-ラクタム薬は内因性耐性で全て効果が期待できません。切り札のカルバペネムでさえだめなんだから、培養結果が本当に重要です。A. baumaniiは耐性度は菌株ごとに違いがあるのですが、3世代セフェムのうちCTXやCTRXといったものは自然耐性です。

耐性菌であるため感染すると治療が難渋化しますが、人工物に関連した感染症も多いので、デバイス管理をしっかりとし、不必要なデバイスは抜去することが大切です。

検査室に必要なスキルとして・・・

AcinetobacterとS. maltophiliaはデバイス関連感染に多いので、提出された背景や理由についてしっかりと把握すること、検出されたら耐性菌のことも想定して、今使っている抗生剤について調べ、変更する抗生剤について処方提案を行う。

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